整形外科
基本情報
受診を希望される方へお知らせ
整形外科外来診療は紹介制・予約制です。
概要
高松赤十字病院整形外科は、骨折などの外傷はもちろん、加齢による変形性疾患を含め、整形外科全般の診療をしており、あらゆる整形外科疾患に対応できるよう努力しております。なかでも頚椎、腰椎などの脊椎脊髄疾患や、膝、股関節を中心とする四肢関節疾患が手術の多くを占めています。また手外科・マイクロ外科や、小児整形外科にも対応しております。開業医の先生方の御協力のもと、地域の中心的存在としての実績を誇っています。
整形外科診療の大きな柱となる脊椎外科や関節外科などについてご紹介いたします。
スタッフ紹介
スタッフ名 | 専門分野 | 認定医・専門医等 |
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脊椎・脊髄外科(側弯症・脊柱変形等)、リウマチ外科 | 日本整形外科学会整形外科専門医 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医 日本整形外科学会脊椎内視鏡下手術・技術認定医(2種・後方手技) 日本臨床神経生理学会認定医 日本骨粗鬆症学会認定医 日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科専門医・指導医 日本リハビリテーション医学会専門医・指導医 日本リウマチ学会リウマチ専門医 日本体育協会公認スポーツドクター 日本DMAT隊員 |
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関節外科 | 日本人工関節学会認定医 日本整形外科学会専門医 |
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足の外科 | 日本足の外科学会足の外科認定医 日本整形外科学会 専門医・指導医 日本整形外科学会 認定スポーツ医 日本整形外科学会 認定リウマチ医 日本整形外科学会 認定運動器リハビリテーション医 日本リハビリテーション医学会 認定臨床医・専門医 義肢装具等適合判定医 |
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整形外科一般 | 日本整形外科学会専門医 |
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整形外科 | |
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整形外科 | |
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関節疾患(股、膝関節)、整形外科一般 | 日本整形外科学会専門医 日本リハビリテーション医学会専門医・指導医 日本リウマチ学会専門医 |
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手外科・微小外科(マイクロサージャリー) | 日本整形外科学会専門医 日本手の外科学会専門医 |
詳細情報
脊椎外科 (担当医師:三代)
脊椎外科は頚椎・胸椎・腰椎の障害に対して、手術的に治療をする診療科です。
主な対象疾患
- 腰椎
腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,腰椎分離症,腰椎すべり症,圧迫骨折,その他 - 頚椎
頚椎椎間板ヘルニア,頚椎症性脊髄症,頚椎後縦靭帯骨化症,その他 - 胸椎
小児側彎症,胸椎黄色靭帯骨化症,胸椎椎間板ヘルニア,圧迫骨折,その他
当院整形外科 手術実績
- 平成23年1月~12月 全脊椎手術222例
頸椎手術約85例,脊椎内視鏡手術 95例(うち腰椎ヘルニア80例) - 平成24年1月~12月 全脊椎手術280例
頸椎手術約60例,脊椎内視鏡手術 102例(うち腰椎ヘルニア87例)
脊椎固定術75例 - 平成25年1月~12月 全脊椎手術339例
頸椎手術約70例,脊椎内視鏡手術 107例(うち腰椎ヘルニア90例)
脊椎固定術95例 - 平成26年1月~12月 全脊椎手術387例
頸椎手術約80例,脊椎内視鏡手術 133例(うち腰椎ヘルニア113例)
脊椎固定術123例 - 平成27年1月~12月 全脊椎手術400例
頚椎手術約70例,腰椎椎弓切除60例,
脊椎内視鏡手術 117例(うち腰椎ヘルニア98例)脊椎固定術153例 - 平成28年1月~12月 全脊椎手術378例
頸椎手術約90例,腰椎椎弓切除63例,
脊椎内視鏡手術 124例(うち腰椎ヘルニア95例)脊椎固定術127例 - 平成29年1月~12月 全脊椎手術395例
頚椎手術71例,腰椎手術280例,
脊椎内視鏡手術 93例(うち腰椎ヘルニア77例)脊椎固定術164例 - 平成30年1月~12月 全脊椎手術403例
頚椎手術100例,
脊椎内視鏡手術 116例(うち腰椎ヘルニア90例)脊椎固定術155例 - 令和元年1月~12月 全脊椎手術364例
頚椎手術59例,
脊椎内視鏡手術 101例(うち腰椎ヘルニア70例)脊椎固定術169例 - 令和2年1月~12月 全脊椎手術350例
頚椎手術64例,
脊椎内視鏡手術 100例(うち腰椎ヘルニア66例)脊椎固定術150例 - 令和3年1月~12月 全脊椎手術361例
頚椎手術65例,
脊椎内視鏡手術 105例(うち腰椎ヘルニア77例)脊椎固定術135例 - 令和4年1月~12月 全脊椎手術342例
脊椎内視鏡手術 98例(うち腰椎ヘルニア77例)脊椎固定術176例 - 令和5年1月~12月 全脊椎手術332例
脊椎内視鏡手術 81例(うち腰椎ヘルニア63例)脊椎固定術134例
特徴
腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、頚椎椎間板ヘルニアなどには低侵襲手術を行っています。手術は病変部を治療するために,皮膚の切開,筋肉や骨の切除といった損傷を体に加えることは止むを得ないことですが、できる限り皮膚切開を小さくし筋肉や骨の切除も最小限にする手術を低侵襲手術といいます。
本院は低侵襲手術として、脊椎内視鏡手術を平成11年(1999年)4月から、全国でも早期に導入しております。腰椎椎間板ヘルニアに対しては、後方から2cmほどの皮膚切開で内視鏡的にヘルニアを摘出します。手術当日の術後3時間で歩行が可能になります。そのため、手術に伴う尿道カテーテル挿入の必要がなく、下着を着けたまま手術を受けることが可能です。腰部脊柱管狭窄症や頚椎椎間板ヘルニアなどにも病態により内視鏡手術で対応可能です。
その他、高齢者の圧迫骨折後偽関節に対するバルーン椎体形成術、棘突起間スペーサー(X-stop, Medtronic Sofamor Danek社)を用いた制動術、腰椎固定術などにも専用の器械を用いて低侵襲手術を行います。術後の創部痛が軽減され、手術翌日から歩行可能となり患者さんに対する身体的負担が軽減できます。そのため早期の退院、社会復帰が可能となります。
一方、側彎症や脊椎骨折、脊柱変形による腰痛や下肢痛に悩まれている方の治療も行います。状況により、大きな脊柱矯正手術や脊椎固定術が必要になることもあります。特に小児期に生じた側彎症は将来的に胸郭の発育を障害したり、腰痛の早期発症、顔貌や肩のバランスなどプロポーションにも悪影響を及ぼしたりします。軽い側彎だからと放置されると,急速に悪化し適切な治療時期を逃してしまうこともあります。装具治療により手術を回避できることもあります。側彎症は定期的な健診が必要です。
また高齢化が進む中、骨粗鬆症を基盤とした複雑な脊椎脊髄障害が増えています。低侵襲手術を行っても十分症状が改善しなかったり、大きな手術を行っても背骨の変形がさらに進んでしまったり治療法の選択が非常に難しい場合があります。そういった状況ではそれぞれの患者さんの病態や状況、社会環境に合わせて最適な治療法とその将来の展望を考慮し、担当医と一緒に相談しながら治療を進めていくことが重要です 。
代表的脊椎手術
頚椎椎弓形成術
全身麻酔下に頚椎後方に10センチほどの正中縦切開を加え、椎体後方を展開して椎弓(背骨の背側)を開いて人工骨をはさんで脊柱管(神経の通り道)を広げる処置を行います。翌日から座位、立位歩行可能です。装具は基本的に使用しません。頚部の術後疼痛の程度にもよりますが、通常翌日から歩行可能です。術後2-4週程度で退院可能です。
正常な脊髄
圧迫された脊髄
頚椎椎弓形成術後
腰椎椎体間固定術
腰椎変性すべり症や腰椎変性側弯症などには背骨を安定化させる必要がある場合があります。この場合はチタン製のスクリューとロッドを使用して背骨を固定し、同時に局所から採取した骨や人工骨を移植します。多くの場合は脊柱管の狭窄も伴うため、神経を圧迫している靭帯や骨も切除して神経の除圧も行います。立位開始まで数日かかることもありますが、当科では通常翌日からコルセットを装着して歩行開始します。通常術後3-5週で退院可能です。
内視鏡下腰椎椎間板ヘルニア切除術,頚椎椎間孔拡大術,頚椎・腰椎部分椎弓切除術
全身麻酔下に障害レベルの背部正中付近に20mmほどの皮切を行い、16mmの筒にカメラを設置して鏡視しながらヘルニアを摘出したり、神経を圧迫している靭帯や骨を切除したりします。装具なしで手術当日から立位歩行可能です。経過がよければ術後5-10日前後で退院可能です。
経皮的椎体形成術
近年、高齢化が進む中で背骨の骨折患者さんの数は増えています。通常は1~2か月程度のコルセット使用で症状は軽快しますが、中に強い痛みが続き骨折が治らないまま偽関節という状態になってしまう場合があります。このような場合最近では全身麻酔下に小さな2カ所5mm程度の皮切から、折れた背骨に器具を挿入して、人工のセメント材を注入して骨を人工的に安定化させる方法で症状の改善を期待できる場合があります。この簡便な経皮的椎体形成術は、すべての骨折に適応できるわけではありませんので担当医に相談してください。当日もしくは翌日から歩行可能です。術後3-7日で退院可能です。
側弯症手術
脊柱の大きな弯曲や変形のため、背部痛や神経痛,将来的な脊柱の破綻を予防するためにスクリューやフックを用いた大きな矯正手術が必要になることがあります。矯正固定レベルにチタン製のスクリューを挿入し2本のロッドと連結して矯正と固定を行います。範囲が広い場合は、骨盤の骨を一部採取し、人工骨と混ぜて背骨の背部に骨移植を行います。この場合も術後数日で立位訓練を開始します。症例により硬性コルセットや短期的にギプスを使用することがあります。思春期の症例では術後2-3週間で退院可能です。高齢者の場合では4~8週間くらいの入院加療が必要になります。
当科症例 レントゲン写真
左から、手術前正面/手術後正面/手術前側面/手術後側面
脊椎手術の限界
早期に症状の改善を期待したり、将来の症状増悪を予防したりするものです。手術を行っても背骨は加齢とともに変化してしまうため、術後何年かして再度同じような症状をきたすこともあります。そのためにある程度将来を見据えた治療法の選択が必要になります。
合併症について
術後血腫
脊髄神経は圧迫により障害を受けます。手術によって、変形した骨や肥厚した靭帯などを郭清して神経の除圧を行います。しかし、手術直後から数日の間は神経周囲に手術による血がある程度溜まり、これが予想以上になると、逆に神経を血腫が圧迫して症状が増悪することがあります。症状が強くでてしまった場合は、タイミングを失わないうちに麻酔下に止血,血腫除去術が必要になることがあります。
術後感染症
術後感染といっても皮膚付近の表層だけの軽いものから、深部神経周辺に及ぶ深刻な感染があり得ます。表層の傷が治るのに少し時間がかかる程度の軽い感染は、抗生剤や適切な創処置で対処できます。滅多にありませんが、残念ながら深部の感染が疑われた場合は、麻酔下に再度創を開き、きれいに洗浄して感染巣を掻爬する必要があります。
術後血栓症
いかなる手術でも術後に安静にしすぎると、下肢の太い静脈の中で血栓を生じる場合があります。血栓症はひどくなると、静脈還流が悪化して下肢の腫脹を呈したり、血栓が飛んで肺梗塞や窒息といった重篤な合併症をきたしたりすることがあります。一般的な脊椎手術では血栓を誘発するリスクは高くありません。しかし、もともと強い麻痺があり体動が難しい方や、糖尿病や高脂血症など血栓症のリスクを有する患者さんは注意が必要です。
関節外科(担当医師、三橋、筒井)
関節外科は股関節・膝関節などの障害に対して、手術的に治療を行っています。人工関節置換術、骨切り術、関節鏡視下手術、関節リウマチ、小児股関節疾患などを対象としています。
四肢の関節痛、特に膝や股関節の痛みは整形外科でよく見られる症状です。膝の痛みの原因には、加齢に伴って軟骨がすり減ってしまう変形性膝関節症や、スポーツなどで膝関節の中の半月板が損傷されたり、靭帯が断裂したことによるものなどがあります。
軟骨がすり減った変形性膝関節症には、膝の周囲の筋肉を強くする運動や、軟骨を保護する注射を行いますが、それでも痛みが続く場合には、O脚(ガニ股)に変形した膝をまっすぐに直す手術(高位脛骨骨切術)や、人工股関節に取り替える手術を必要とすることがあります。
半月板や靭帯が切れた時には、膝に小さな切開を加え、関節鏡という内視鏡を使って手術を行い、できるだけ早く復帰できるようにしています。半月板切除術、縫合術などのほか、前十字靭帯再建術などを鏡視下に行っております。
また、股関節痛の原因として、乳児期の先天性股関節脱臼やその後の股関節の形成不全によるものもしばしばみられ、成人になってから股関節痛がひどくなる場合があります。膝と同様に軟骨がすり減ってしまい変形性股関節症になると、人工股関節が必要となることもありますが、若年者や変形の程度が軽ければ、骨切り術という自分自身の骨を用いて手術する方法があります。当科では人工股関節の手術だけでなく、寛骨臼回転骨切術やキアリ骨盤骨切術などの関節を温存する骨切り術も積極的に行っています。
人工関節や骨切り術の手術では、輸血を必要とすることが多いのですが、できるだけ他人の血を使用せず、自己血輸血という自分自身の血液を輸血する方法を採用しており、術前の貯血のほか、手術中や手術後の出血を機械で回収処理して輸血する方法も行っています。
人工膝関節全置換術について
膝関節
膝関節は、大腿骨(もも)、脛骨(すね)、膝蓋骨(膝のお皿)が靭帯や筋肉で連結されています。大腿骨は膝関節の部分で大きく2つに分かれ、それぞれ内顆、外顆と呼ばれる大きな関節面を脛骨と形成しています。さらに膝蓋骨の裏側と大腿骨の前面にもう1つの関節面があります。これらの関節面は弾力性があって、表面がとても滑らかな軟骨という組織で覆われています。軟骨は関節面に加わる衝撃を緩和するクッションの役目を持っています。軟骨は通常耐久性があるものですが、年齢を重ねるにつれて消耗しやすくなります。
関節を守る軟骨が磨り減ってしまうことにより、変形性膝関節症(骨関節炎)が発症する経過をたどります。軟骨の表面は徐々に削れていき、ついには硬い骨がむき出しになってしまいます。一度削れた軟骨は、元の状態に戻ることはありません。骨がむき出しになった状態で膝関節を動かしたり、体重をかけたりすると痛みが発生します。そして、時間の経過とともに変形していきます。
治療法
通常、腫れや痛みという症状は手術を行わず治療します。装具や、つえ、湿布、リハビリ、適切な運動、消炎鎮痛剤、関節注射(ヒアルロン酸)などを用いて治療にあたります。これらの治療法で効果がなくなった場合に、人工膝関節全置換術が推奨されることになります。
右膝手術前/人工膝関節手術後
手術について
人工膝関節全置換術では、大腿骨(もも)の下側の表面と脛骨(すね)の上側の表面を人工物(人工膝関節)に取り替えます。例えるなら虫歯になった表面を削り、金属を被せるようなものです。人工膝関節は金属とポリエチレンと呼ばれるプラスチックで構成されていて、膝関節の傷ついた部分のみを取り替えます。人工膝関節は、より自然な膝関節の機能を再現し、関節炎によって起きた痛みを取り除くことが出来るように作られています。
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人工膝関節全置換術を必要とする患者さんは?
人工膝関節全置換術を受ける患者さんの平均的な年齢は65歳から80歳です。しかしながら、もっと若い患者さんもリウマチなど他の病気が原因で、人工膝関節全置換術の適応となる場合もあります。また、比較的健康で、活動的な患者さんは80歳以上の方でも手術が可能です。リウマチ関節炎、過去の骨折による変形性膝関節症、変形の矯正術後、重度の外傷後なども人工膝関節全置換術の適応になります。
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人工膝関節全置換の手術では?
→皮膚の切開は膝蓋骨(膝のお皿)に沿って縦に、約20cm前後です。
→手術に要する時間は約2時間です。手術前の準備からICUに戻るまでの時間を入れるとさらに1時間から2時間を要します。
→リハビリは手術の翌日から始めます。
→入院期間はリハビリを含め、通常術後約4週間程度必要です。 -
手術後の管理は?
手術を成功させるには、適切なリハビリ、食事管理、ご自身の健康を守る意志が必要です。大抵の患者さんは手術後3ヶ月で筋力も回復し、日常生活にはほとんど支障がなくなり、ウォーキングなども可能となりますが、膝の屈曲制限は残ります。(正座はできません)回復に要する時間は個人差がありますので、担当医の指示に従ってください。
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手術後も担当医の診察は必要?
手術後の経過をみるために、退院後も定期的な通院をおすすめします。人工膝関節に関する合併症が発生する可能性もありますので、少しでも異変を感じた時は出来るだけ早く担当医の診察を受けるようにしてください。
合併症について
人工膝関節全置換術後に伴う、新たな治療が必要な病気のことで、次のようなものがあります。
貧血
体の隅々まで酸素を運ぶために必要なのが血液中の赤血球です。赤血球の中のヘモグロビンが酸素を取り込んで体の隅々まで酸素を行き渡らせているのです。この赤血球や赤血球中のヘモグロビンが不足して、酸素を十分に体内に行き渡らせることができなくなってしまった状態を貧血と言います。貧血が起こるとふらついてしまいますので、リハビリを進める事が出来なくなります。そのために、他人の血液を輸血することもありますが、これが原因で別な感染症を起こしてしまうこともあります。そのため当院では、手術の前に少しずつ患者さん御自身の血液を保存していく「自己血貯血」を行います。こちらは、ご自分の血液ですので感染症の危険性はありません。
細菌感染
膝関節を開けて行う手術ですので、細菌による感染にも注意しなければなりません。一度、大きな感染が起きてしまうと、人工関節をすべて取らなければならないこともあります。こういった感染の予防のために、当院では無菌室で宇宙服のような術衣をきて手術をしています。また、手術後に抗生物質の点滴をして感染の予防をします。
下肢深部静脈血栓症・肺塞栓症
サッカー選手がなったことでも知られている、「エコノミークラス症候群」と同じような病気です。たった一晩でもベッドに寝たきりで動かずにいると、血栓と呼ばれる血のかたまりが、足の太い静脈の中に出来てしまうことがあります。その後、動き始めた時に足の中に出来た血栓が肺の血管の中で詰まったり、ももの付け根の静脈の中に詰まって足がはれたり、息が苦しくなったり、最悪の場合は死に至ってしまうこともあります。当院では手術前後、弾性ストッキングという長い圧迫靴下を履いていただき、これらを予防しています。また患者さんによっては、足にポンプのような空気圧迫器械をつけていただくこともあります。手術後血栓予防の注射も行っています。
非常にまれではありますが、不慮の事故、アクシデントで転倒したり、事故にあったりして人工膝関節をいれた周囲の骨が折れてしまうことがあります。当院ではこれらに対しても、十分な管理体制と、事故防止に努力しております。
以上、手術に際しての怖いはなしが続きましたが、手術を受けられる前に、患者さん一人一人にご理解いただくことが、大変、重要です。少しでもわかりにくいことがありましたら、遠慮なく医師、看護師に聞いてください。
イラスト提供 JMM(http://www.kansetsu-itai.com)
人工股関節全置換術について
股関節
股関節は、大腿骨(だいたいこつ)の上端にある骨頭(こっとう)と呼ばれる球状の部分が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれるソケットにはまり込むような形になっています。正常な股関節では、寛骨臼が骨頭の約4/5を包み込んでおり、このことが関節を安定させています。股関節が安定し、更に周辺の筋肉と協調することで、私たちは、脚を前後左右に自在に動かすことができます。
変形性股関節症は、股関節の形の異常や老化が原因で、股関節が徐々に変形していく病気です。老化によって起こったものを「一次性変形性股関節症」と呼びます。しかしながら、わが国では多くの場合が、「二次性変形性股関節症」と呼ばれるタイプで、先天性股関節脱臼や先天性臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)が原因で発症します。また、関節リウマチ、大腿骨頭壊死症、大腿骨頚部骨折に続発する変形性股関節症も二次性股関節症といえます。何れにしても、関節の軟骨や骨が、磨り減ったり変形したりして起こる病気で、痛みや動きの制限、あるいは跛行(はこう)を伴います。発症すると加齢とともに次第に悪化し、進行してしまうと元の状態に戻すことはできません。
治療法
治療方法は、大きく保存療法と手術療法のふたつに分けられます。
保存療法は手術を行わずに関節機能の温存をめざすもので、自宅でできるものから病院などで行うものまで、いろいろな方法がありますが、自己流な方法で行なうと、病気をかえって悪化させてしまうこともありますので注意が必要です。
実際には種々の療法を組み合わせて行われますが、特に運動療法では、患者さん自身が積極的に治療を行おうとする姿勢がとても重要になります。
手術療法には、悪くなった股関節内の組織を、内視鏡(ないしきょう)により切除する関節鏡視下手術、関節の悪くなった骨の部分をずらして健康な部分があたるようにしたり、関節の変形を矯正したりする骨切り術、そして、人工関節に入れ換える人工股関節置換術などがあります。
人工股関節全置換術
変形性股関節症や関節リウマチ、大腿骨頭壊死、骨折などにより変形した関節を、金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工股関節に入れ替えることで痛みがなくなり、短縮した下肢を1-2㎝程度長くすることが可能で、歩行能力が改善されます。患者さんの年齢や骨の形状、質によって、骨セメントを用いる場合とセメントを使用せずに直接骨に固定する場合とがあります。
手術時間は通常2~3時間程度です。手術は感染を予防するため、クリーンルームを使用して行います。手術には輸血を必要としますので、他人の血液を輸血することもありますが、これが原因で別の感染症を起こしてしまうこともあります。そのため当院では、手術の前に少しずつ患者さん御自身の血液を保存していく「自己血貯血」を行います。こちらは、ご自分の血液ですので感染症の危険性はありません。採血が可能であれば手術の3~4週間前より血液を貯血し、手術の際にその血液を輸血します。
手術後は、術後2~3日程度で歩行器による立位訓練を、4~5日程度で歩行練習を始め、術後約1ヵ月ほどで退院できます。人工股関節は股関節を曲げすぎたり捻ったりしすぎると、骨頭がソケット(臼蓋部)からはずれる脱臼を生じる可能性があるため、日常生活動作に制限が必要となりますので、入院中に入浴、階段昇降、畳での生活、トイレ動作について訓練します。
手術後の合併症
脱臼
関節がはずれてしまうことです。脱臼すると通常は痛みで足を動かすことができませんので、すぐに医師を訪れて元に戻して貰わなくてはなりません。術後日数が経つにつれて脱臼しにくくなります。
深部静脈血栓症・肺塞栓症
深部静脈血栓症とは、下肢の静脈に血の塊(血栓)ができて血管をふさいでしまうことです。血流が悪くなり、下肢がむくんだりふくらはぎが痛んだりします。これは、飛行機などの乗り物で長時間足を動かさないでいるときにもおこります。いわゆるエコノミークラス症候群(旅行血栓症)です。
この血栓が何かの拍子にはがれて、血流に乗って肺まで到達し、肺の血管をふさいでしまうのが肺塞栓症です。肺の血管がふさがると、血液ガスの交換(二酸化炭素と酸素の交換)がうまくおこなわれず、呼吸困難や胸の痛みを感じるようになります。時に取り返しのつかない重篤な症状を引き起こす可能性があります。当院では術直後より足にポンプのような空気圧迫器械をつけていただき、手術後血栓予防の注射も行っています。
感染
人工関節の手術では、細菌感染が起こることがあります。感染には早期感染と晩期感染があり、早期感染は主に手術時の感染が原因と考えられています。これに対し、手術後3カ月以上たっておこる晩期感染は、早期感染に比べ頻度は低いですが、体調をひどく崩したとき(エイズ、ガン、肝機能障害、糖尿病の悪化)などに起こることがあります。感染は抗生物質などで治療できますが、深刻なときは人工関節の入れ替えが必要となる場合があります。
ゆるみ・破損・摩耗
人工関節を使用していると、ゆるんだり、破損したり、摩耗する(すり減る)場合があります。ゆるみは、人工関節の固定性が悪くなってずれてしまうことです。摩耗は、主に人工関節を構成するポリエチレンの部分に見られます。摩耗粉が周辺の骨を溶かす骨融解の原因となる場合があります。
再手術
人工関節がすり減ったりゆるんだりすると、再度、新しい人工関節に入れかえる手術をします。その際、人工関節をすべて取りかえる場合と、交換が必要なものだけを取りかえる場合があります。再手術は一般に初回手術よりも手術時間が長くかかり、入院期間やリハビリも長引きます。
手術後の経過をみるために、退院後も定期的な通院をおすすめします。退院後に人工股関節に関する合併症が発生する可能性もありますので、少しでも異変を感じた時は出来るだけ早く担当医の診察を受けるようにしてください。手術を受けられる前に、患者さん一人一人にご理解いただくことが、大変、重要です。少しでもわかりにくいことがありましたら、遠慮なく医師、看護師に聞いてください。
資料提供 JMM(http://www.kansetsu-itai.com)
足の外科学(担当医師 殿谷(日本足の外科学会認定足の外科認定医、日本足の外科学会評議員))
足関節、足部、趾(足の指)の病気や怪我を中心に手術を行っています。対象疾患は非常に多く、変形性足関節症、外反母趾、扁平足、足部変形や趾変形、足関節靭帯損傷、骨軟骨損傷、アキレス腱断裂、足根骨癒合症、骨折などです。手術は低侵襲手術である関節鏡手術を中心に、関節鏡視下足関節固定術、足関節靭帯修復・再建術、外反母趾矯正術など様々な手術を行っております。関節鏡手術は、小さな皮膚切開なため、術後の疼痛は少なく、術後は早期に日常生活や社会に復帰することが可能です。
代表的手術
外反母趾に対する、矯正骨切り術
術後数日間は外固定を行いますが、その後踵部歩行ができます。術後6-8週で母趾への荷重や踏み返しができます。
変形性足関節症に対する、関節鏡視下足関節固定術
術後は数週間ギプス固定を行いますが、荷重は比較的早期から可能で、骨癒合も従来の方法と比べて早い傾向にあります。
足関節外側靭帯損傷に対する、関節鏡視下靭帯修復術
術後数日間は外固定を行いますが、その後痛みに応じて可動域訓練や歩行訓練を開始します。術後6-8週頃から運動を許可します。
後方インピンジメント症候群に対する、後方足関節鏡手術
術後の外固定は行っていません。術翌日より痛みに応じて歩行訓練や可動域訓練を行います。スポーツの種目にもよりますが、早ければ、術後約3週以降に運動を許可します。
体外衝撃波治療について
足の裏にはかかとの骨から足先にかけて足底腱膜という線維の束が扇状に走っています。この足底腱膜が緊張し、かかとの骨とつながっている部分で引っ張り合う力がかかります。しかし、長年の負荷の繰り返しによって、足底腱膜とかかとの骨がつながっている部分がいたんだり、炎症を起こしたりして痛くなるときがあります。これが足底腱膜炎です。症状としては、起床時、運動開始時、長時間歩行時のかかとの内側の痛みです。体外衝撃波治療が有効といわれ、足底腱膜炎の新たな標準的治療となってきており、2023年10月より当院にも導入しました。1回の治療時間は約10~15分で、一定期間をおいて複数回の照射を行うことが多いです。麻酔は不要で、傷あとは残らず、治療後には治療前と同様に歩行可能です。平均的な治療効果は60~80%と報告されており、痛み・不快感、腫脹、発赤などが生じる場合もありますが、重篤な副作用はないといわれています。香川県内で体外衝撃波治療を施行可能な施設は少ないので、足底腱膜炎でお困りの方はぜひ受診してください。
当院で用いている体外衝撃波治療装置
足底腱膜炎に対する体外衝撃波の照射
手外科(担当医師、笠井)上肢(手指-前腕)の問題
手のしびれや知覚運動障害があった場合
手のしびれや知覚運動障害の原因として、脳や脊髄(頚椎の中)の問題であることも多いです。一方、脊髄から出てきた末梢神経が原因となることも多く認めます。上肢(末梢神経レベル)で障害される代表的疾患として、手根管症候群、肘部管症候群があります。いずれも多くは中年以降に発症することが多いです。手根管症候群は女性に多く、手首で正中神経が障害され、おや指からくすり指の半分までの範囲でしびれ感や知覚障害が出現し、おや指の根元にある筋肉が萎縮しておや指の先で物をつまみにくくなります。一方、肘部管症候群は男性に多く、肘関節内側後方で尺骨神経が傷害され、くすり指半分からこ指でしびれ感や知覚障害が出現し、おや指も含めて指で挟みにくくなります。
いずれも軽症であれば、手術以外の治療、それ以上になってくると神経の圧迫を除く手術で治療します。進行して重症になると神経の障害が強く、つまみにくさや挟みにくさの回復は期待しにくくなります。そのため腱移行などの追加手術を行って手指の機能(つまむ、挟むなど)を向上させることが必要になります。この場合は手術後にしばらくリハビリテーションによる訓練が必要になります。
その他には少ないながらも、ギヨン管症候群(手首での尺骨神経障害があり、もっぱら手の中の小さな筋肉が萎縮して動かなくなる)橈骨神経麻痺、前または後骨間神経麻痺などがあります。これらではしびれや感覚の障害を伴わずに、筋肉の運動だけが動かなくなる麻痺を呈することも多いです。
当院では神経電気生理検査や、超音波エコー描出による末梢神経障害部位の同定を行い正確な診断治療を行っています。
関節リウマチおよびリウマチ関連疾患による手指障害
関節リウマチは全身の関節に炎症が起こり、徐々に関節の障害(痛み、変形、運動制限など)が出てきます。昨今の関節リウマチの治療は不可逆性の関節障害が進行する前に薬物治療を行って、これらの障害を予防することが主体になっています。しかしながら関節障害が進行してしまった場合はその障害に応じて外科的治療を行います。手指および手関節は関節リウマチによる関節炎が起こりやすいと言われています。関節リウマチによる関節炎が長引くと様々な変形が出てくることが知られています。代表的なものとしては手指尺側偏位(指が全体的に小指側に向いてくる)、ボタンホール変形(いわゆる第2関節が伸ばせなくなる)、スワンネック変形(第2関節が過剰に伸びて曲げれなくなる)、手指腱断裂(小指側から指の根元で伸ばすことができなくなる)などがあります。いずれも早めの治療(外科的な処置を含めて)が勧められます。また、関節炎による破壊が進行して手が使いにくくなる前に、機能より外観の改善を目的として手術を行うこともしばしばあります。
生まれつきの手の問題(一般的に先天異常手と言われます)
出生時点で手指に問題を認めることがあります。頻度が多い疾患としては、多指症(余分な指があるもの、1万人あたり約9人)、合指症(指がくっついているもの、同約8人)、短指症などの低形成(同約3人)、絞扼輪症候群、母指形成不全、屈指症、橈尺骨癒合症などがあります。母指形成不全手では、おや指は手指の機能の中でも大きな重要性を占めます。そのため何とかおや指を獲得できるように治療計画を立てます。あるていどおや指が存在しておれば、関節移植・腱移行・骨延長などで機能獲得をはかります。おや指が痕跡的であれば、人差し指をおや指に移動させる手術または足趾移植で対応しています。
手くび関節の痛み
手くび関節に痛みが出てきた場合に考えられる疾患としては、上記の関節リウマチによる手関節炎以外にも以下のような原因が代表的なものとして考えられます。
- デケルバン病では手くびのおや指側の腱に沿った痛みで、おや指を動かす腱の腱鞘炎が原因です。装具や腱鞘内注射で治療を開始し、無効例には腱鞘切開の手術を行います。
- 舟状骨骨折と同骨折後の二次的変化:舟状骨骨折は転倒などの受傷で本人も気付かない程度で骨折をきたしていることがあります。この骨折は自然に治りにくく、放置することによって手くびの他の部分にまで関節破壊をきたしてしまいます。早期手術が奨められ、後日見つかった場合でも早期の対応が必要になります。
- 月状骨壊死(キーンベック病と呼ばれます)は、青壮年に多く誘因なく手くびの痛みをきたします。これも放置しておくと手くびの他の部分にまで関節破壊をきたしてしまいます。
- 尺骨突き上げ症候群は、前腕の二つの骨のうちの尺骨が長いために、手くびで文字通り手くびの骨に尺骨が突き上げる状態になって痛みが出てきます。尺骨を短縮することによって改善をはかります。
- 三角線維靱帯複合体(TFCC)損傷:手くび関節のこ指側にある線維軟骨が断裂などを受け痛みを起こします。手くび関節のこ指側のぐらつきや骨突出を伴うこともあります。サポーターなどで治療を開始しますが、症状が取り切れない場合は手術を行うこともあります。
- 手根不安定症では、本来は塊となって動くはずの手くびの小さな骨がバラバラな動きを起こすことによっておこります。原因は様々で、病態に応じた治療が必要になります。