「診療看護師(Nurse Practitioner:NP)」とは専門的な訓練を受け高度な医療行為に携われるいわば看護師と医師の中間のような存在。昨年放映のドラマでも描かれて話題になりました。 昨春から当院初・県で3人目の診療看護師として心臓血管外科病棟で活躍する水本看護師をご紹介します。
勉強と実習に明け暮れた怒涛の大学院2年間
大阪出身で、根っからの関西人です。大学進学を機に香川に来て、当院では救急外来の看護師として10年ほど夜勤専従で働いていました。まだ知名度の低い診療看護師を目指したきっかけは、もともと僻地医療に興味があり、医師不足問題や自身の救急外来経験も踏まえ、「診療看護師なら医師がすぐ対応できなくても重症化を防ぐ手助けができるのでは」と思ったからです。
私の経歴で診療看護師の資格を取得するには5年以上の現場経験と2年間の大学院修士課程修了が必要で、経験は満たしていましたから、当時全国に10校くらいあった大学院のうち、働きながら受講できる仙台の大学を選びました。オンライン授業をベースに月1回は仙台へ出向いて医学知識や技術を学び、2年目に入ると実習も始まって… かなりハードな日々でしたね。看護師が医師の判断を待たずに行える特定の診療補助を「特定行為」と呼び、実際に行うには所定の研修を修了する必要があります。当院でもさまざまな分野の特定看護師が活躍していますが、診療看護師は全38種ある特定行為をすべてできるよう、各5症例ずつ経験しなくてはいけません。実習先は全国に広がり、救急外来で一緒に働く周囲の皆さんの理解があったからこそ学び続けられたと、今でも感謝しています。
チーム医療の鍵として院内を奔走する毎日
2024年4月から、当院初の診療看護師として心臓血管外科で働いています。診療看護師は現在香川に3人のみ。大都市部では増えていますが、業務範囲にはまだ明確な規定がなく各医療機関で独自に判断しており、当院も手探りで体制を整えているところです。
私は診療看護師としてのキャリアが浅く、まだ関われなかったり自信がない行為もありますが、心臓血管外科は難易度の高い手術と術後の内科的治療、どちらも学べることが多い分野です。手術に参加する際は第二助手としてドレーンや点滴の抜去、閉創、医師の立ち会い下での胸腔穿刺などに携わるほか、病棟での相談対応や他職種と連携したリハビリサポートも行っています。
ICU、病棟、リハビリ室、手術室、外来、救急…とあちこちで柔軟に対応しているからか、「いつ見ても走ってるね」と言われることも。電話一本で済ませられることでもなるべく足を運んで対面で話すのは、私の信条です。自分で判断できないことはすぐ先生のところへ走って確認して、なるべく早く戻る! 病院中を駆け回る私の姿を通じて、院内でも知らない人が多い診療看護師のことを少しでも周知できれば嬉しいですね。
診療看護師は、単に専門性の高い医療補助ができるだけでなく、医師や他職種が連携・協働するチーム医療のキーパーソンです。医師にとっては「頼もしい助手」、看護師にとっては「円滑な看護のサポート役」として、一丸で患者さんによりよい医療を提供したいと思っています。
心臓血管外科病棟は基本的に重症で手術を経験し、入院も長期にわたる患者さんが多いので、全員のことを把握して医師や病棟スタッフと毎朝情報を共有しています。現在の私は一般的な看護師のシフト制ルーティンではなく平日5日勤体制で、患者さん一人一人にしっかり向き合う時間をとれるのがいいところ。小さな変化にも気づきやすく、医師の判断を待たなくてもタイムリーに対応できることが多いのも、患者さんの信頼と安心につながるのではないでしょうか。
後進の育成にも期待
何事も「資格を取ったらゴール」ではなく、そこからが本当の学びです。聞かれたことに曖昧な答えは返せないから自分なりに調べるし、医師や他職種との日々のコミュニケーションを通じて知識は間違いなく深まっています。この「コミュニケーション」こそが、私は診療看護師の重要なスキルだと考えます。
まだまだ知名度の低い資格ですが、経験とやる気さえあればチャレンジできますから、今後は他の科にも診療看護師が増えれば、いろんな知識を交えて患者さんのためによりよい治療を考える協力体制が深まるでしょう。私はその連携を取り持つ立場として、当院になくてはならない存在感を発揮したい。とてもやりがいのある、私の可能性を広げてくれる仕事だと思っています。