新体制になって意気込みも新たに─。
高度生殖医療センターで中核を担う3人が これまでとこれからを語り合いました。
院内連携と最新設備が支える高度生殖医療の最前線
妊孕性温存・男性不妊にも同一施設で対応できる強み
【石橋】当院の高度生殖医療センターの特長のひとつは、2019年11月に香川県で初めて妊孕性温存治療※の実施医療機関として認定を受けたことです。妊孕性温存治療に対応できるのは現在も当院を含めて県内2カ所のみで、実際、患者さんも多い傾向にあるのでは。個人的に、婦人科系の悪性腫瘍の治療で妊孕性が低下してしまった患者さんのことをよく覚えているので、今年からセンターに関われてうれしく思います。
【三宅】泌尿器科でも抗がん剤治療前の精子凍結などの対応をします。30代くらいの若い人が多い印象です。「急に抗がん剤治療が必要になった患者さんの精子凍結を」と要請を受けて緊急対応したこともありました。患者さんの将来のために何とかしてあげたいけれど、ご本人もがんの診断を受けたばかりで混乱しているし、そんな時に採精は難しい。2023年4月に前任の医師から引き継いでまだ2年目、そういう経験は初めてでした。
【宮城】女性の不妊治療が中心ですが、石橋先生が三宅先生に紹介した男性患者さんが手術を受けて、造精機能が大きく改善した例もありましたね。
【三宅】女性と男性の不妊治療が同一施設内でできるのも特長と言えるでしょう。最新鋭の設備が整った手術室と、総合病院ならではの分野を超えた連携があり、不妊治療に来た男性に精索静脈瘤(造精機能障害)が見つかって手術を行うなど、院内で迅速に対応できます。また、当院は無精子症の患者さんに対するMD︲TESE(顕微鏡下精巣内精子採取術)ができる、県内2カ所の医療機関の一つ。不妊にかかわる男性側の因子の一つがED(勃起障害)で、当院は男性機能に関する外来が早くから開設された歴史もあります。こうした環境も踏まえ、現在は生殖医療専門医の資格取得を目指しています。
【宮城】男性不妊治療に取り組む医師はまだ少なく、生殖医療の専門医も四国でまだ1人しかいませんから、ぜひ頑張ってください!
【石橋】妊孕性温存治療ができる病院として、もう少し知名度を高め県内の医療機関と連携を図っていくのは課題の一つです。講演などの場も活用して積極的に発信していきたいと思います。
※妊孕性温存治療:がんなどの治療で生殖機能に影響が出る恐れがある場合、治療前に卵子や精子を凍結しておき、原疾患の治療後に妊娠・出産できる可能性を残す治療
不妊治療は心身のケアが大切 患者さんと誠実に向き合いたい
【石橋】当院の不妊治療は患者さん一人一人の情報を踏まえて丁寧にヒアリングを行い、若い人なら検査をしつつタイミング指導、人工授精、体外受精… とステップを踏み、卵管機能が悪い人や年齢が高い人は体外受精を主な選択肢として進めています。
【宮城】卵子や精子は体の中にあるのが一番いい状態で、外に出るとどんどん質が低下してしまいます。胚培養士である私は患者さんと長く話す機会が少ないんですが、お預かりした卵子や精子の質をできるだけ落とさず扱い、きちんとお返しできるよう心掛けています。治療が長引くと私たちも試行錯誤の連続で、ついに妊娠がわかった時は私まで歓声を上げたくなるくらいうれしいものです。
【石橋】2022年から不妊治療が医療保険適用になって、若いカップルが取り組みやすくなりましたが、若くても長引く場合はあります。治療期間が長くなってくると「妊娠することがすべて」と思いつめてしまいがちですから、丁寧にコミュニケーションを取って患者さんの視野を広げることも大切にしています。
【宮城】頑張れば必ずうまくいくものでもなく、どこかで立ち止まり考える時間が必要な場合もあるのは事実です。何が正解かわからないなりに、「妊娠出産が人生のすべてではなく、血を分けた子供でなくても子育てはできるし、二人の生活を楽しむのもいい」と頭の片隅に置いてもらえるよう、誠実に伝えていきたいと思います。
【三宅】その点では、男性の方が割り切りやすいのかもしれません。無精子症と診断された患者さんが、提供精子での人工授精に切り替えたケースもありました。不妊を女性だけの問題と思わず、男性もぜひチェックしてみてほしい。昔に比べると男性不妊の受診率は向上していますが、まだまだハードルが高いイメージも根強い中、当院は泌尿器科で男性医師が対応できます。泌尿器科の中でもマイナーな分野ですから、きちんと外来のマニュアルを整えるのが今後の課題です。
【宮城】胚培養士の技術向上にも取り組んでいます。若手2人が研修を経て、日本卵子学会認定の試験に昨春合格しました。その後も生殖関係の学会をはじめ、オンライン配信なども駆使して週1~2回は勉強会に参加しています。多くの人の視点を学ぶチャンスを生かし、さらなるスキルアップを私を含め目指しているところです。
【石橋】妊娠がゴールではなく、その後には出産と子育て、子どもが成人するまでの長い時間があります。私たちの技術向上や啓発とともに、患者さんにも「ずっと健康で過ごす」ための適切な生活習慣管理を大事にしてほしいですね。
高度生殖医療センター
産婦人科医、泌尿器科医、胚培養士、看護師、薬剤師、社会福祉士など多職種が連携し、4カ月ごとに他の職種も交えた会議で院内情報共有を深めつつ、女性・男性不妊と妊孕性温存治療※に当たる。治療が長引く人には不妊相談窓口で心理士らがメンタルケアも行っている。
関連
⋙高度生殖医療センターで何ができるの?~不妊治療~
⋙高度生殖医療センターで何ができるの?~妊孕性温存治療~
⋙高松赤十字病院 産婦人科のぺージ
⋙高松赤十字病院 高度生殖医療センター(不妊治療)のぺージ