重症心不全の治療体制が充実チーム医療で命を救う
心不全は、さまざまな要因で心臓が正しく機能しなくなり、適切に治療すれば改善するものの完全に元に戻ることはない慢性疾患です。症状の重さによっていくつかのステージがあり、心機能がひどく低下して通常の治療では改善が難しく、集中治療を要するような状態を「重症心不全」と呼びます。急性心筋梗塞や劇症型心筋炎など「急激に悪化する」例が多く、迅速な救命治療がとても大切。循環機能をサポートする装置の埋め込みや強心薬などの薬物療法、心臓移植が必要な場合もあります。
2018年に開設した当院の「高度心不全治療部」は、こうした緊急性の高い重症心不全の救命治療のためのチームです。循環器科や心臓血管外科の医師、ICU看護師、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、理学療法士、管理栄養士といった多職種が連携し、心臓機能を補助する装置の管理からリハビリ・栄養管理まで含めたトータルケアで、患者さんの生存率も少しずつ向上しています。また、2021年に植込み型補助人工心臓(VAD)管理施設に認定され、23年12月からは循環補助用装置「Impella」による治療もスタートしました。
❶Impella(インペラ)
心機能を支える装置の選択肢が拡大 昨年12月からImpellaを導入
「急激な悪化」を伴った、一般的な治療では救命できない重度心不全患者さんには、さまざまな機械を使った治療が必要となります。当院でも年間10~20人の患者さんが、こうしたメカニカルサポートを受けています。
太ももの血管から挿入したカテーテルで心臓の動きをサポートする大動脈内バルーンパンピング(IABP)、 人工肺とポンプを使う体外循環装置(ECMO)などに加えて、2023年12月から「Impella」が当院でも新たにスタートしました。 超小型ポンプをカテーテルで心臓の中に留置し、機能が衰えた心臓の代わりに全身の血液循環を支える治療です。迅速かつ低侵襲な処置で、従来の装置に比べ心臓の機能をフルサポートできます。
メカニカルサポートが必要な患者さんのほとんどは数日から数週間程度で症状が安定して機械が必要なくなりますが、改善がみられない場合は、人工心臓や心臓移植といった選択肢を検討することになります。
❷植込み式VAD(バド)
県内2番目の管理施設認定 人工心臓の発達で「第二の人生」の可能性も
VADとは、血液の循環を人工的にサポートする補助人工心臓のこと。心臓のポンプ機能を支える機械を心臓に取り付ける「植込み式」と、体外に設置する「体外式」があります。もともとは心臓移植を待つ間の橋渡し治療でしたが、近年では人工心臓装置そのものが進歩して10年以上使えるようになり、2021年からは心移植を前提としない永久使用が認められています。植込み式VADの進歩によって重度心不全でも退院して日常生活を送り、旅行に行けるまでに症状が安定するなど、第二の人生を楽しめる可能性が高まってきました。
VADの移植手術ができる施設は国内でも限られ、香川近県では大阪大学・国立循環器病センター・愛媛大学です。一方、移植したVADを維持管理する施設は少しずつ増えています。VADを使っている患者さんは管理施設から一定の距離内に住む必要があり、従来は引越を伴うなど負担を強いられていました。移植施設以外の管理施設が増えることで、住み慣れた地域での管理・治療とともに、機器トラブルなど万一の事態が発生した場合も迅速に対応できる環境が整いつつあります。
当院も2021年12月、県内2番目のVAD管理施設に認定されました。移植実施施設とこれまで以上に連携を深め、ヘリポートなどの施設力を生かしながら、VADの維持管理だけでなく緊急性の高い心不全患者さんの救命にも取り組んでいます。
第一循環器科部長・高度心不全部長
外山 裕子(とやまゆうこ)
急性期医療を担う当院では「緊急時に命を助ける」心不全治療に重点を置いていますが、高齢化社会の進行とともに心不全のリスクを抱える人は全体的に増加傾向にあり、早い段階で治療や改善に努めるのも重要です。高血圧、糖尿病、高脂血症などは心不全の大きな要因。きちんと検診を受けて自分の状態を把握し、診断結果をもとに生活習慣を見直してみましょう。特に喫煙はハイリスク! 毎日の心掛けが、健やかな心臓を長持ちさせる第一歩です。