2022年秋から始まった心臓弁膜症治療「マイトラクリップ」をはじめハイレベルなカテーテル治療を担う2人の医師が、率直な思いを語ります。
心臓弁膜症に新たなアプローチ
【山田】 高齢化に伴って、心不全患者さんが増えていますね。県内で高度なカテーテル治療ができる医療機関は限られており、当院をはじめ何カ所かに集中しがちです。
【宮崎】 カテーテル治療の対象となる疾患には、狭心症や心筋梗塞、不整脈、足の血管狭窄、そして我々の専門である心臓弁膜症の主に4つがあります。心臓弁膜症のうち僧帽弁閉鎖不全症のカテーテル治療「マイトラクリップ」が、当院でも去年10月から始まりました。足の付け根の静脈から心臓の右房を経て左房側にカテーテルを入れ、機能が衰えた僧帽弁を洗濯ばさみみたいなクリップで挟む…というと簡単そうですが、従来に比べると手技も機械もはるかに複雑。山田先生が経食道心エコーを入れて、それをガイドにクリップを誘導していくカテーテル手技を私が担当しています。他の手術と違って術者とエコー医が密に協力しないとできない特殊な治療です。
【山田】 クリップが数ミリなのでエコーもミリ単位の描出が必要で、クリップを挟む個数やバランスも判断が難しい。カテーテルもしくはエコーのいずれかに特化する医師が多い中で、宮崎先生はご自分がエコーを担当することもあるので、議論しやすくて心強いですよ。
【宮崎】 心不全の原因はいろいろありますが、その内の一つである弁膜症に対してすべてを網羅的に治療できるのが当院の強み。開胸手術に加えてTAVI・マイトラクリップまで院内でできる医療機関は、当院を含め県内2カ所のみです。まずは経験値の目安である30例の達成に向けて、山田先生とコミュニケーションを取りながら技術を磨きたいところです。
治療を支える高度なチーム力
【山田】 カテーテル治療のように医師・看護師だけでは完結しない治療に、医師とは目線が違うコメディカルスタッフが積極的に関わり、どんどん提案してくれるのが当院の特長ですね。
【宮崎】 各職種で専門性の高い資格を持つスペシャリストが育ち、多角的なアプローチで「一人の患者さんを全員で治療する」一つのチームとして機能しています。
【山田】 高いモチベーションと覚悟を持って資格を取得し、ハイレベルな教育を受けたスタッフが増えてきました。特に心不全は退院した後が大事ですから、多職種が患者さんの退院後の生活を支えるために動いてくれるのは助かります。
【宮崎】 さらに、国立循環器病研究センターで学ばれた山田先生のリードで、最先端の研究データに基づいて心不全の病態をより深く理解する院内カンファレンスが4月から始まりました。それにより我々スタッフ全体が心不全の知識をよりいっそう深めることができ、これまでと違うアプローチでより適切かつ質の高い治療を提供できるようになったと感じます。
【山田】 全国から希な疾患や診断・治療の難しい症例が集められており、1年でも密度が濃い研修でした。今は学んだことを共有し、センターと当院は病院の役割も規模も違いますが、いいところを当院にも取り入れて、当院がこれまでやってきたことの精度を高めていきたいです。
【宮崎】 カンファレンスを機会に若手医師の勉強意欲も上がり、心不全診療全体をよりよくしようという雰囲気が院内にあります。今後は看護師さんや技師さんにも広げていきたいですね。
課題は次世代の育成!
【山田】 私は「臨床」「教育」と、「研究」の3本柱を大事にしたいと常々思っています。特定の医師がいるからできる治療ではなく、人が変わっても長く続けられる院内体制をつくるために、自分の臨床力向上とともに、私が学んだことを次世代のスタッフに効率よく伝えていきたいです。
【宮崎】 心不全患者さんが増えていく中、我々に代わる次の世代を育てたい思いは私もあります。我々の取り組みを中央に発信するのも大事。当院のレベルが上がり、当院の治療や研究に関する評価が上がり、患者さんに提供する医療の質が上がり、若い医師たちが興味を持ってくれる、そういう好循環につながれば…。
【山田】 教育や研究は地味な作業で、市中病院では評価されにくい分野です。しかし、当院での診療内容を発信し、大勢の人に知ってもらうことで人も集まり、自分達へのフィードバックにもなり、好循環が生まれます。自分の技量を高めつつ、教育と研究を同時に進める、これが今後の課題です。
写真左:第三循環器科部長 宮崎 晋一郎
最近の楽しみは大谷翔平選手の活躍をチェックすること。子供と一緒にプロ野球の試合を観に行くことも。
写真右:第二循環器科副部長 山田 桂嗣
アマ将棋2段。段位の免状には興味がなかったが、今なら羽生善治日本将棋連携会長と藤井聡太名人の署名が入ると知って心が揺れている。