骨粗しょう症は、骨の量と質が低下して骨が弱くなり、重要な部位を骨折しやすくなる病気です。 高齢になるほど患者数も増える傾向があるため、病気のメカニズムと対策を正しく知り、年をとっても丈夫な骨を守って元気に過ごしましょう!
骨粗しょう症で大腿骨近部位・背骨を骨折すると…
Q. どんな病気?
古い骨を吸収する「破骨細胞」の働きが新しい骨をつくる「骨芽細胞」の働きを上回ってしまい、骨がもろくなる状態。
骨粗しょう症に痛みは通常ありませんが、些細なはずみでも骨が折れる「脆弱性骨折」を起こしやすくなります。大腿骨や背骨など重要な骨が折れて寝たきりになったり、骨が弯曲して姿勢の異常や歩行障害をきたしたり、心肺機能低下などの合併症を引き起こしたりと、生活の質が大幅に低下する恐れがあり、早期発見・早期治療が鍵です。
Q. どんな人がなりやすい?
原発性骨粗しょう症
加齢による女性ホルモンの低下、ビタミンD不足などによって起きるもの。胎児・新生児に栄養を供給する必要がある妊産婦が一時的にかかる「妊娠後骨粗しょう症」も、原発性の一つです。女性ホルモンのエストロゲンは破骨細胞の働きを抑制する作用があり、閉経後の女性に骨粗しょう症が多いのは、ホルモン減少や老化と関わりが深いと言われます。ビタミンDにはカルシウムの吸収を助ける作用がありますが、日本人は民族的にビタミンDが欠乏気味という指摘があり、栄養不足や日光に当たる機会が少ないと、男性でも加齢とともにリスクは高まります。
続発性骨粗しょう症
他の疾患やその治療に伴う薬物の影響で骨の密度や質が低下して起きるもの。甲状腺などにかかわる内分泌疾患、栄養の偏り、ステロイド剤やがん治療薬などの長期投与、寝たきりや麻痺など体が動かせないことなどが、主な原因です。生活習慣とのかかわりも深く、運動不足、極端な肥満ややせ型といった体重の偏り、喫煙や飲酒などの生活習慣も、骨密度や骨質を下げるリスク因子です。
Q. 骨が「強い」「弱い」って?
骨の強度は、骨密度(カルシウム量)7割+骨質(構造と材質)3割で決まると言われます。骨密度が高くても、骨質が低ければ骨そのものの強度も低く、骨粗しょう症のリスクは大きくなります。骨密度は放射線や超音波を使う測定検査で測れます。診断基準には腰椎や大腿骨近位部で測定するのが一般的で、最も骨密度の低い部位の値を診断に使います。
Q. どうやって診断するの?
原発性骨粗しょう症の患者さんが医療機関を受診するきっかけは、「痛みなどの症状がある」もしくは「骨折して初めて受診する」場合がほとんどです。当院では、問診や血液検査・画像検査で総合的に診断します。
骨粗しょう症の主な治療法
骨折している場合は手術が必要ですが、骨粗しょう症そのものは投薬・食事・運動療法で改善が図れます。患者さん一人一人の病態や状況、社会・生活環境に合わせて、担当医と一緒に相談しながら最適な治療を進めていきます。
栄養・運動指導
骨密度を上げるための継続的な栄養管理とともに、専門家の監修の下、複数の運動を組み合わせたトレーニングで骨密度の上昇を目指します。
薬物治療
いくつかの種類があり、患者さんの骨代謝マーカーの数値や腎機能を踏まえて使用する薬を決めます。骨の強さはさまざまな治療のベースとなるため、当院でも「骨をつくる」薬は優先的に使用し、新薬の導入なども積極的に進めていく方針です。
骨強度を改善するPTH製剤や抗スクレロスチン抗体などを3カ月ほど使うだけでも、骨の状態は向上。背骨の骨折の場合、骨粗しょう症の治療で症状が軽くなれば手術をしなくて済むこともあり得ます。
手術
骨折はいち早い受診が治療の鍵。「骨をつくる」薬を併用しつつ、骨折の状態や患者さんの体力などを踏まえ、総合的に判断します。
当院では背骨や関節の手術を行うに当たっても必ず骨密度をチェックし、骨粗しょう症の治療を先行的に行っています。特に大腿骨近部位骨折は股関節付近の痛みが強く、歩行にも困難をきたすため、いち早い手術が大切。早期の手術に積極的に取り組む院内体制を整えています。一方で、透析患者さんや高カルシウム血症などのカルシウム代謝異常、すでに多発性の骨折を起こしている患者さんなどは、治療が難しい場合もあります。
大腿骨近部位骨折
脚の付け根付近の骨折を指し、折れた場所によって治療法が異なります。手術はいずれも1時間程度で終わるケースがほとんどです。
●大腿骨転子部骨折
周囲を筋組織などで守られていて、折れてもくっつきやすい部位です。骨折した部分をできるだけ元の形に近づけるよう、金属などの器具で固定する手術が一般的です。
●大腿骨頚部骨折
折れた骨がくっつく過程では骨の表面の「外骨膜」が重要な役割を果たしますが、大腿骨頚部は外骨膜がなく、骨折した部分がくっつきにくい部位です。骨折に伴って動脈が損傷し血流が悪くなり、壊死や骨頭陥没などの合併症を引き起こすこともあります。そのため、大腿骨頚部骨折の場合、多くは人工骨頭に置き換える手術を行います。
背骨の骨折
背骨に最も多いのは圧迫骨折で、強い痛みがあります。低侵襲な手術で症状が改善する場合もありますが、次々と圧迫骨折が続いて背骨が弯曲し、内臓を圧迫して胃腸・呼吸障害を起こしたり、麻痺などがある場合は、切開を伴う手術が必要です。
●経皮的椎体形成術
6カ月以上治らず「偽関節」という状態に陥った骨折は、全身麻酔で皮膚に5㍉程度の穴を2カ所開け、折れた背骨にセメント材を注入し、骨折前に近い形で人工的に安定させる方法で症状の改善を図ります。1時間程度の手術で、当日もしくは翌日から歩行可能、術後3~7日で退院できます。
圧迫骨折してつぶれた部分をバルーンでふくらませたのち、医療用のセメント剤を注入します。すべての骨折に適応できるわけではなく、主治医の判断のもとで行う手術です。
日頃の心掛けで骨粗しょう症を予防!
栄養
世代を問わず、バランスよく食べ、適性体重を維持しよう!
・毎日700~800mg以上のカルシウムを摂る
・塩分はカルシウムの吸収を妨げるので注意
・特に若い世代の無理なダイエットは禁物!
・骨のもとになるたんぱく質、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、カルシウムを骨に定着させる働きを助けるビタミンKを摂取しよう
骨を強くする!おすすめレシピ 具だくさんミルクスープ
筋肉の維持に必要なたんぱく質、骨の素材になるカルシウム、カルシウムの吸収や骨への定着を助けるビタミンDやビタミンKを効率的にとれる、骨粗しょう症予防にぴったりの中華風スープです。
<栄養価(1人分)>
エネルギー 197kcal たんぱく質 11g カルシウム 332mg 塩分 0.9g
〈材料(1人分)〉
・鶏モモ肉:20g 牛乳:200ml 小松菜:50g ニンジン:10g マイタケ:10g ブロッコリー:30g 鶏がらスープの素:1.5g ゴマ油:1.5g 塩コショウ:少々
〈作り方〉
①鶏モモ肉を一口大に切り、塩コショウで下味をつけておく。
②ニンジンは細切り、小松菜は2cm、マイタケとブロッコリーは小さめに切る。
③鍋にゴマ油を熱して鶏肉に焦げ目がつくまで炒め、ニンジン・小松菜・マイタケを炒め合わせる。
④全体に火が通ったら牛乳と鶏ガラスープの素、ブロッコリーを入れて火が通るまで煮て、塩コショウで味を調える。
運動
無理せずできることを毎日続けるのが大事!
・転倒予防のエクササイズ:スクワット、かかと上げ運動、片足立ち
・15分程度の日光浴
・大股で歩くウォーキング
喫煙と飲酒
いずれも常習者は骨折リスクが男女問わず高いので要注意!
・タバコは胃腸の働きを抑え、カルシウムの吸収を妨げる。禁煙を目指そう!
・アルコールの利尿作用でカルシウムが排出される恐れも…。飲酒は1日500ml缶ビール1本以下が目安!
骨粗しょう症検査・セルフチェック
一般的に、最大骨量を獲得するのは18~20歳とされます。若いうちの無理なダイエットは、強い骨づくりの大敵。骨量が大きく変化しない40代のうちに骨密度検査を受けて、自分の状態を把握しておくといいでしょう。特に女性は50歳前後から骨量が低下し始めます。閉経後、特にステロイドを服用していたり、両親が大腿骨頚部骨折したことがある女性は、1年に1回程度の骨密度検査を受けましょう。
40歳以上を対象に、12項目の簡単な質問に答えるだけで今後10年で骨粗しょう症による骨折を起こすリスクがわかる「FRAX」という評価ツールもあります。50~60代で骨折したら、骨折そのものの治療だけでなく骨粗しょう症の検査も受けることをおすすめします。
チームケアと地域連携で治療を支えます
骨粗しょう症は患者数が非常に多いため、チームケアが不可欠です。当院では多職種で骨粗鬆症マネージャーを育成し、看護師をはじめ、理学療法士、薬剤師、栄養士などへ広げていく予定です。骨粗しょう症の患者さん向けに独自のテンプレートを作成し、医師・看護師・薬剤師・栄養士など多職種が治療を支える情報共有体制も確立しています。骨粗しょう症の治療は継続するのが大事! 改善がみられていても、治療を中断するとまた悪化しますから、数年スパンで定期的に骨密度をチェックしましょう。急性期病院である当院では、患者さんが継続的な治療を受けられるよう、近隣地域の骨粗しょう症治療医との連携に取り組むとともに、意識向上のための情報発信にも力を入れていきます。
第一整形外科部長 兼 リハビリテーション科部長 三代 卓哉(みしろたくや)
日本整形外科学会専門医/日本脊椎脊髄病学会脊椎脊髄外科専門医/日本脊椎脊髄病学会指導医/日本骨粗鬆症学会認定医