鼻水や鼻づまりの症状が長引いて何となくスッキリしない…という時は、副鼻腔炎を起こしているかもしれません。「ただの風邪」、「アレルギーだからいつものこと」という油断は禁物!
副鼻腔ってなに?
鼻の周囲にある8つの空洞のこと。前頭洞・篩骨洞・蝶形骨洞・上顎洞の4つが左右一対になっています。副鼻腔から出る分泌物や異物は、鼻腔とつながる「自然口」を通って外に排出されます。
副鼻腔炎とは?
副鼻腔炎は、鼻の周辺に位置する「副鼻腔」という空洞の粘膜が炎症を起こしている状態です。風邪などをきっかけに鼻水、鼻づまりの症状が長引くと、副鼻腔炎にかかってしまいます。症状としては、鼻水がのどに流れ落ちて、咳や痰が続くことや、匂いが分かりにくくなって、食事の美味しさが分かりにくくなることもあります。症状がひどくなると寝ている時に息苦しくなって夜に目が覚めてしまう場合もあります。
副鼻腔炎になる仕組み
①風邪(ウイルスや細菌感染)やアレルギーによって、炎症が起きる
②粘膜の腫れや鼻水によって、自然口がふさがる
③副鼻腔から分泌物や異物を排泄できなくなり、鼻水や膿がたまる
自己判断で市販薬に頼らず、かかりつけ医に相談しよう
副鼻腔炎には、風邪などの細菌やウイルスが原因の「細菌性副鼻腔炎」、アレルギー体質の人がかかりやすい「好酸球性副鼻腔炎」、虫歯や歯周病など歯の炎症からくる「歯性副鼻腔炎」などの種類があります。特に好酸球性副鼻腔炎は手術しても再発しやすく完治が難しい病気で、2015年に難病指定されました。
発症から1カ月程度で治る場合は「急性副鼻腔炎」、3カ月以上症状が続く場合は「慢性副鼻腔炎」とされ、慢性副鼻腔炎は蓄膿症とも呼ばれます。もともと鼻の穴が狭い人、鼻炎を治療しないまま放置して鼻の粘膜が腫れている人、アレルギー体質の人、喘息を持っている人などは副鼻腔炎になりやすい傾向があります。
単なる風邪やアレルギー性鼻炎だと思い込んだり、「生活の質は下がるけど日常生活は送れるから…」と長期間放置している人もいますが、糖尿病患者さんをはじめさまざまな理由で免疫力が下がっている人は悪化しやすく、ごくまれに目や脳に広がって失明したり髄膜炎を引き起こす例も…。鼻水や鼻づまりが10日以上続く場合は、独断で市販薬などを使用する前に、地域の耳鼻科を診療しましょう。鼻の環境を整え、すっきり快適な日常を取り戻すためにも、早めの受診と治療が大切です。
副鼻腔炎の治療の流れ
❶診断
副鼻腔炎の検査には、内視鏡検査・画像検査・血液検査などがあります。当院でも、まず内視鏡で鼻の中を観察し、炎症の状態や症状、鼻茸と呼ばれるポリープができているかなどを調べます。内視鏡で見えにくいところはCTを撮ることもあります。
CT検査と内視鏡で確認した鼻茸の状態。CT画像では鼻茸によって副鼻腔の空洞がふさがって見えます。
❷治療
保存的治療
抗菌薬や点鼻薬の投与で、多くは改善します。急性の場合は短期間の投与で済みますが、慢性になると2~3カ月にわたることも。好酸球性副鼻腔炎では抗アレルギー薬が処方される場合もあります。投薬と並行して、鼻腔洗浄や鼻汁の吸引も適宜行います。病状によってはかかりつけの先生へお薬の治療を依頼します。
外科的治療
薬で炎症が抑えきれない場合は、手術も選択肢の一つです。当院でも、内視鏡関連の高い設備力と豊富な症例に基づいて積極的に手術を行っており、2022年の実績は215件でした。
手術は全身麻酔下で、鼻の穴から内視鏡を入れて行います。複数の空洞に分かれている副鼻腔の壁を壊して一つにつなげ、治療しやすい環境を整えた上で、炎症を起こしている粘膜や鼻茸・溜まった膿などを除去して、鼻が本来持っている自浄作用の回復を目指します。
医師にとっては高度な内視鏡操作技術が求められる手術ですが、患者さんにとっては大きく切開していたかつての術式に比べて副鼻腔の機能を温存しやすく、出血や痛み、顔の腫れといった術後の負担が軽度で、見た目の傷あとも残りません。「鼻中隔弯曲症」など鼻まわりの骨の変形を合併している場合も、内視鏡手術で矯正できます。
❸経過観察
手術をした場合は術後4日ほどで退院することが多く、一般的には手術後1~2カ月で症状が落ち着きます。根治を目指せる病気ですが、術後の適切な通院・薬の服用と、日頃から風邪などを予防する対策が重要。特に好酸球性副鼻腔炎は再発するリスクが高いとされています。当院では地域のクリニックと密に連携し、手術後も数年スパンで様子を見て、異常を感じたら早めに受診するようおすすめしています。
新型コロナウイルス感染症と耳鼻いんこう疾患の症状は共通するところが多く、鼻に異常を感じても受診を控えがちな人が多いかもしれませんが、当院では新型コロナ感染症の検査も併せてきちんと行っていますから、安心して受診してください。その分、問診や検査が長時間化して患者さんには負担をおかけすることもありますが、安全な医療のためにご理解・ご協力をいただけますよう、お願いいたします。
耳鼻いんこう科副部長 能田 淳平(のうたじゅんぺい)
日本耳鼻咽喉科学会専門医/日本耳鼻咽喉科学会/耳鼻咽喉科専門研修指導医 2005年愛媛大学卒。19年から現職。