さぬきの健康と元気をサポートする高松日赤だより

なんがでっきょんな

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がん医療を分野横断的に支える 腫瘍内科の最前線 

診療分野の枠を超え、当院の総合的ながん治療向上に貢献する腫瘍内科。
最先端のゲノム医療から患者さんのストレスを軽減し、標準治療の効果を支える支持療法まで幅広い役割を担っています。 

がんの治療法は大きく「手術」「放射線治療」「薬物療法」の3つに分かれ、これらを「標準治療」と呼びます。患者さんの状態に合わせて3つの治療法を組み合わせ、がん治療全体の効果を総合的に高めるのが「集学的がん治療」です。
こうした標準治療の副作用・合併症・後遺症などを軽減・予防し、標準治療の効果をより高めるために行うケアを「支持療法」と呼びます。
通常はがんが発生した場所に応じた診療科が治療に当たりますが、検査をしても最初にがんが発生した場所がわからず転移した病巣だけがわかっている「原発不明がん」、症例が極めて少なく他のがんに比べて診療に課題が多い「希少がん」、複数の臓器にがんが発生している「多重がん」などは、腫瘍内科の診療対象となります。
腫瘍内科の役割は、「集学的がん治療」「がんゲノム医療」「コンサルテーション(相談対応)」の3つ。どの診療科にも当てはまらないがん患者さんに最適な治療を選択・提供し、最先端のがんゲノム医療を選択する際の核となり、各診療科の情報を横断的に結びつけるハブとして院内のがん医療全体をバックアップする、重要な役割を担っています。

役割① 最適な治療とケアを提案 ―集学的がん治療と支持療法―

腫瘍内科では、特に専門性の高い薬物療法を中心に、外科・放射線科と連携しながら、患者さん一人一人に合わせた集学的がん治療を戦略的に進めています。
薬物療法の進歩は目覚ましく、数年スパンでどんどん新しい薬が登場し、従来は薬がなかった分野にも効果的な治療薬が次々と生まれています。中には余命3カ月と宣告された患者さんが1年半の集学的治療を受け、手術ができる程度に小さくなったがんを切除して、3年経っても元気に過ごしているケースも。すべての患者さんにこれほどの効果が約束できるわけではありませんが、こうした患者さんの例が決して「奇跡」ではないレベルまで、今のがん医療は進歩しているのです。


一方で、薬物療法は薬の影響や心身のさまざまな要因から吐き気や痛み、食欲減退、だるさ、血球値が下がるといった症状も伴うことがあります。「薬物療法は嘔吐がひどくて髪が抜けて…」といったイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。今は治療薬そのものだけでなく副作用を抑える薬も進歩して、こうした症状は以前に比べてずっと軽くなりつつあります。



さらに、がん治療に伴う副作用のストレスをできるかぎり軽減して生活の質を守り、スムーズかつ効果的に治療を進めるための支持療法も行われます。
副作用などに対応しなければ、患者さんの心身機能が低下するだけでなく、栄養状態が悪化したり生活の質が低下して、治療そのものが延期・中断するリスクが高まります。早期から支持療法を行えば、こうしたリスクを下げ、治療効果の向上・治癒率の向上を目指すことができます。標準治療の進歩はもちろん、支持療法の有無も、治療効果の向上に大きな役割を果たしているのです。標準治療に支持療法が加わると、生存率が高まる傾向があることもわかっています。



中でも当院のがん支持療法で特徴的なのは、漢方を応用していること。安価で侵襲性が低く、薬効も期待できることから、ほぼすべての患者さんに何らかの漢方を処方しています。がんそのものの治療ではなく、基礎体力をつけたり副作用を抑えたりといった目的に合わせて使うもので、4割ほどの患者さんに改善が見られています。


役割②見つかれば、効く!ゲノム医療

当院は2021年4月に「がんゲノム医療連携病院」に指定され、「がん遺伝子パネル検査」を行えるようになりました。個々の患者さんのがん細胞の特徴をゲノム解析で調べる検査で、治療効果が期待できる薬、参加できる可能性がある臨床試験・治験まで含めた最適な治療法をより効率的に選択できるようにするものです。
結果が出るまでに1カ月程度の時間がかかること、検査で適合する治療法が見つかる人は10%程度であること、高額な費用がかかることもあり、現状では誰にでもお勧めしている検査ではありませんが、標準的な治療の効果が限界となりつつあるがんや標準治療の確立していない希少がん・原発不明がんを中心に、どんな種類のがんにも対応しています。当科では2021年11月~22年7月で、45件の検査を行いました。
薬物療法においては、従来の抗がん薬だけでなく、がん細胞のたんぱく質や遺伝子など特定の分子だけに効率よく作用する「分子標的薬」や、免疫機能ががんを攻撃する力を高める「免疫療法薬」といった選択肢の幅が広がっています。がん細胞のゲノム解析で適切な薬が見つかれば、従来の抗がん薬よりはるかに高い治療効果が期待できるのです。分子標的薬の場合、合う薬が見つかる人は2~3%にとどまりますが、そのうち9割の人が効果を得られるとされます。
もう少し検査が一般化すれば、がんの再発リスクを考慮した先行的な治療や、自分のがん発症リスクを踏まえた予防なども行えるようになっていくと言われ、今後も注目度の高い分野です。


役割③ 分野横断の強みを生かすコンサルテーション

集学的がん治療やゲノム医療を行うには、他診療科や他職種をはじめ院内全体との網羅的な連携が欠かせません。日頃の連携を通じて、腫瘍内科にはさまざまながんの治療知識が集まってきます。また、腫瘍内科が行うゲノム検査で得られた結果が、別の病気の治療に活用できる可能性もあります。そうした情報を踏まえ、各種がん相談や、診療分野を横断して投薬や治療に関するアドバイスを広く行うコンサルテーション業務でも、腫瘍内科は強みを発揮しています。
患者さんが最適ながん医療を受けられるよう、手術・放射線・化学療法・緩和医療の各専門医による腫瘍会議を通じて情報を共有し、治療担当医の診療を支援。他職種の各メディカルスタッフや事務部門まで含めた院内のチームによる連携・協力も不可欠で、臨床研究や基礎研究をはじめとする学術活動だけでなく、がん専門医・がん専門看護師・がん専門薬剤師といった専門性の高い医療人材の育成にも中四国の教育機関と連携しながら取り組んでいます。こうした総合的な診療・教育・研究を通じて、病院全体のがん診療向上と、地域医療への貢献を目指すのも、腫瘍内科の大切な役割です。

当院の腫瘍内科の体制


2021年3月に本格的な診療がスタートし、現在は医師2人と修練医1人の3人体制です。一般的に見てもまだ新しい診療科であるため、他の診療科のカンファレンスなどにも参加して腫瘍内科の役割を周知しつつ院内連携を確立し、院内外のさらなる連携強化とともに、人材育成にも注力しているところ。初年度は診療180例、薬物療法35例に対応しました。現在の患者さんは院内紹介が中心ですが、将来的にはもう少し間口の広い対応も視野に入れています。
また、いつも通りの生活を続けながら外来で抗がん薬治療を行う患者さんのために、外来化学療法室を整えています。ナースコールのついたベッド10床、リクライニングシート4つを完備し、すべてにテレビカード式のテレビを設置。専用トイレや個室診察室もあり、治療中はスタッフが常駐していますから、リラックスして治療に専念していただけます。

最先端医療から伝統医学まで駆使して腫瘍内科が目指すこと

・安心して受けられる集学的がん治療で完治を目指す
・より高い治療効果を探すためのがんゲノム医療
・手術できなくても、再発しても、より長く今までの生活を維持する
・つらい抗がん剤の副作用も、今は昔よりずっと軽減できる
・治療や生活の質を高く維持できるよう、漢方薬も応用


学生時代、「病気になる前と同じ姿に戻すのが医療の理想だ」と思ったことで内科を志し、当時まだ治らない病気とされたがん医療の道を選びました。以降、薬の劇的な進歩を目の当たりにして、こんなに延命効果が高まるのかと驚いたものです。
長らく血液内科で研鑽を積んできて、腫瘍内科にチャレンジしたいと思ったのは10年ほど前のこと。がんは「暗くて深刻」なイメージが付きまといがちで、もちろん厳しさもありますが、医療は着実に進歩していて、昔に比べるとずっと「何とかなる」時代になりました。ぴったりの治療法を一緒に探していきましょう。医療者として、独りよがりにならないよう、一人一人の患者さんに真摯に向き合ってまいります。

腫瘍内科部長・化学療法科部長
西内  崇将


表紙

なんがでっきょんな

vol.70

最新号

「高松日赤だより なんがでっきょんな」は、患者の皆さんに高松赤十字病院のことを知っていただくために、季刊発行する広報誌です。季節に合わせた特集や役立つ情報を掲載いたします。冊子版は、高松赤十字病院の本館1階の③番窓口前に設置していますので、ご自由にお持ち帰りください。左記画像をクリックすると、PDFでご覧になることもできます。

Take Free!

Columnvol.70の表紙のひと

1年目初期研修医

4月より新しく加わった10人の研修医です。今回の表紙は当院の目の前に広がる中央公園にて撮影しました。当日はよく晴れて、少し汗ばむ陽気でしたが若さあふれる元気いっぱいの一枚になりました。 まだまだ不慣れなこともあるとは思いますが、どうぞ温かい目で成長を見守ってください。