さぬきの健康と元気をサポートする高松日赤だより

なんがでっきょんな

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「肝・胆・膵」の病気と外科治療 3D解析も駆使し最適な術式を追求

消化器外科領域において、肝臓・胆のう・膵臓の病気は「肝胆膵外科」と総称される分野です。
当院の平均年間実績では肝臓がん20例、膵臓がん10~20例。今後さらに症例を増やすとともに、治療法の進歩にも力を入れていきます。

肝胆膵の役割 ―近接して関連し合い消化機能を支える臓器群―

肝臓

腹部右上に位置し、肋骨に守られた人体で最大の臓器。「たんぱく質なおの栄養を合成・貯蓄」「有害物質の解毒と排出」「脂肪の消化を助ける胆汁の生成」の主に3つの役割を果たしています。切除しても再生する能力を持つ唯一の臓器ですが、病気になっても自覚症状が出にくいため、気が付いた時には症状が進行している…といったリスクも。


肝臓がん 内科と密接に連携し肝機能に応じて判断


大きく開腹する場合(上)に比べて腹腔鏡手術(下)は傷が小さく、患者さんの負担も少ない

肝臓に多い病気は、肝がん。他の臓器から転移した「転移性肝がん」と、肝機能障害やウイルス性肝炎などに由来する「原発性肝がん」に分かれます。治療薬の進歩でB・C型肝炎由来のがんは少なくなっている一方、脂肪肝・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などから発症するケースは近年増加傾向。転移性肝がんの場合は、大腸がん由来のものが多くを占めます。
肝がんの治療は消化器内科と密接に連携して進め、難しい症例は消化器外科・消化器内科・腫瘍内科の消化器カンファレンスで討論を重ねて治療法を決めることも。外科手術を行うのは、主にがんが大きい場合の肝切除です。肝臓は正常な状態であれば3分の2を切除しても約1年でほぼ元通りに肥大していきますが、回復力は肝機能によるところが大きいため、患者さん一人一人の状態に合わせて切除する量を判断します。腫瘍の大きさや場所によって、ごく部分的に切除する場合と、「肝葉」と呼ばれる左右の片方を大きくとる場合があり、約半数は体に負担の少ない腹腔鏡手術で対応できます。術後の経過観察や治療は主に消化器内科が担当し、退院後も通院による定期検査を行います。
肝がんは再発しやすい傾向があり、がん細胞が肝臓から血流に乗って周囲の臓器や骨、脳に転移することもありますが、多くは肝臓内で再び見つかります。がんの状態や患者さんの体の状態を踏まえて、やはり消化器内科を中心に治療方針を決めていきます。一度肝切除手術を受けた人が再発した場合、再び外科手術を行う「再肝切除」も選択肢の一つです。


〈手術の合併症〉

肝切除量が少ない場合は、ほとんどが合併症もなく3〜7日程度で退院できます。切除面から胆汁が漏れることがあっても、ドレーン留置や内視鏡処置で治ります。
大量に切除した場合、残った肝臓が機能せず致死的な肝不全に陥ることがありますが、ごくまれなケースです。肝不全を予防するためには、術前に「残る肝臓に十分な機能があるか」を正しく評価することが大切。腫瘍に栄養を送っている血管をふさいで腫瘍を小さくするなど、残せる肝臓の量をなるべく大きくしてから手術に臨みます。術中の大量出血も肝不全を引き起こすことがあるため、手術の際は血流コントロールで出血量を減らすよう心掛けます。


3Dシミュレーション


CT画像(左)を3Dで解析・再構築したもの(右)。これをベースに手術を組み立てる

手術の際は各種検査と並行して計画を練り始めます。その際に活躍するのが、「シナプス・ヴィンセント」と呼ばれる3D画像解析システムです。CTやMRI画像を取り込み、門脈や肝静脈など大事な血管の配置や患部を3D画像で再構築して、それを元に手術の前に実際の手順を組み立てていきます。
正常な組織にできるだけ影響を与えず、出血も確実にコントロールする工夫など、患者さん一人一人に対して詳細かつ具体的なシミュレーションが可能なだけでなく、腫瘍の位置や適切な残肝量がすぐにわかる計算機能も備えているため、難易度の高い症例でも術式をしっかり検討して手術に臨むことができます。


胆のう

肝臓・膵臓・十二指腸と管でつながっていて、肝臓でつくられた胆汁は、胆管を通って一時的に胆のうに溜まります。食べ物が十二指腸にたどりつくと、胆のうが収縮して胆汁が押し出され、十二指腸へ排出され、脂肪の消化を助けます。肝臓と違って全部手術で摘出しても生活に支障は無く、食事制限もありません。


胆石症  無症状なら治療不要。手術はほぼ全例が腹腔鏡


胆のうに多い病気は、圧倒的に胆石症です。胆石とは、胆汁に含まれる成分が結晶化したもので、通常は大きくても3~4センチ程度。石ができる場所によって「胆のう結石」「胆管結石」「肝内結石」の3種、石の成分によって「コレステロール石」「色素石」の2種があり、それぞれ「胆のう結石」と「コレステロール石」が大半を占めます。
石ができる原因はよくわかっていませんが、無症状なら治療の必要はありません。「胆石痛」と呼ばれる特徴的な痛み、黄疸、尿の色が濃くなる、皮膚のかゆみが出るなどの症状があれば、検査の上で必要に応じて手術を行います。ほぼ全例が体への負担の少ない腹腔鏡手術です。


膵臓

胃の後ろに位置する細長い臓器で、「食べ物を消化する膵液をつくる」「血糖値を調節するインスリンなどのホルモンをつくる」という、主に2つの分泌機能を担っています。膵液は糖・たんぱく質・脂肪のすべてを分解することができ、膵管によって運ばれ、肝臓から胆管を通って運ばれてくる胆汁と合流して、十二指腸へと流れていきます。膵臓をまるごと失うと栄養消化と血糖値のコントロールも失われるため、術後は薬やインスリン注射による補助が必要です。


膵臓がん 再発リスクが高め。術後もきちんと検査を


PET検査で見た膵臓がん
患部が検査用薬剤に反応している

膵臓に多いのも、やはりがんです。主に膵液の通り道である膵管の細胞から発生し、進行すると閉塞性黄疸や腹痛、おなかの張り、食欲不振、腰や背中の痛みなどがみられますが、初期はほとんど自覚症状がなく早期発見が難しい病気。糖尿病が急に悪化して検査をしたら膵臓にがんが見つかった、というケースもよくあります。
がんの状態や場所などを考慮し、切除可能であれば外科手術、切除不能なら化学療法で対応します。すぐに手術できる場合でも、再発リスク軽減のため、術前に約2カ月間の抗がん剤治療を行います。
術後、少なくとも5年は定期的に採血・CT検査を行います。膵臓がんは3年以内に再発することが多いため、その間3~4カ月に1回はCT検査を受けましょう。術後6カ月抗がん剤を内服すると、予後が延長することも明らかになっています。


膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN) 自覚症状は少ないが悪性だとがん化も


IPMNの腹部エコー画像。患部が黒い影のように見える

膵嚢胞性疾患もよくみられる病気です。これも自覚症状が少ないため、他の病気の検査で偶然見つかることが多く、代表的なのは膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)。原因はよくわかっていませんが、ねばねばした液体が溜まった袋状の腫瘍が膵管内に増殖して、ゆっくり進行します。良性から悪性までさまざまな段階があり、悪性になると膵炎や糖尿病を併発したり、がん化することもあるため注意が必要。外科手術で切除するのが一般的です。


〈手術の合併症〉

膵切除後は食事量が安定せず低栄養状態になって、手足がむくんだり腹水が溜まることがあります。食事量が増えれば改善しますから、消化のいいものをよくかんで食べましょう。術後3~10日前後に、約10%の確率で起きるのが「膵液瘻」。残った膵臓と小腸を縫い合わせたところから膵液が漏れる症状です。絶食で膵臓や腸管を休め、抗生剤を点滴し、必要に応じてドレーンを入れ替えたり穿刺して溜まった膿を排出するなどの対処をします。
残った胃の動きが悪く食欲低下や嘔吐を起こす「胃排泄遅延」、小腸内の細菌が胆管に逆行して高熱や腹痛・背部痛を伴う「胆管炎」などの合併症も起こり得ますが、食べ方の工夫や投薬でほとんどが改善します。


早期発見の鍵は検診


かかりつけ医に相談
どんな検診を受けられるか
相談してみましょう

肝胆膵外科領域の病気は自覚症状が少なく、早期発見のチャンスとなるのは検診です。「痛みや異常を感じていないから自分は大丈夫」と油断せず、検診をきちんと受けましょう。腹部エコー検査を受ければ判明するケースも多いため、遺伝的要因や不規則な生活習慣など、リスクを抱えている人には特におすすめ。できるかぎり臓器の機能を温存し、生活の質を守るためにも、定期的な検診でこまめにチェックしましょう。
万が一異常が見つかった時は、CTや腹部エコー検査、一部はPET検査などでさらに詳しく調べ、必要に応じて治療方針を検討します。


職場の健診
定期的な健診はさまざまな病気の
早期発見のチャンス


人間ドック
当院でもHPや電話で予約を受け付けています


市町村の検診
詳細は対象者に行政から届く
受診票をご確認ください

先進的な環境を生かして治療水準向上に力を入れたい!


2022年春、第二消化器外科部長に就任しました。優れた最新設備が整い、先進的な取り組みを進める当院の環境を生かして、症例の増加に力を入れていく見通しです。個人的には、膵臓がんに化学療法や放射線治療を効果的に取り入れ、再発・合併症の防止と予後の改善を重視した外科治療をさらに追求したいとも考えています。
研修医時代は肝胆膵外科分野に対してハードルが高いイメージを持っていましたが、近年は治療法が大きく進歩し、ごく身近な病気になってきたように感じます。腹腔鏡手術をはじめ体に負担の少ない治療法も増えていますから、体の不調や違和感を感じたら、気軽に医療機関へ相談してみてください。

第二消化器外科部長
小森 淳二(こもりじゅんじ)

日本外科学会認定医・専門医・指導医/日本消化器外科学会専門医・指導医/日本膵臓学会・指導医
1996年浜松医科大学卒業。2016年から当院で消化器外科治療に当たり、2022年4月から現職。オフは温泉でゆっくり過ごすのが楽しみ。


表紙

なんがでっきょんな

vol.70

最新号

「高松日赤だより なんがでっきょんな」は、患者の皆さんに高松赤十字病院のことを知っていただくために、季刊発行する広報誌です。季節に合わせた特集や役立つ情報を掲載いたします。冊子版は、高松赤十字病院の本館1階の③番窓口前に設置していますので、ご自由にお持ち帰りください。左記画像をクリックすると、PDFでご覧になることもできます。

Take Free!

Columnvol.70の表紙のひと

1年目初期研修医

4月より新しく加わった10人の研修医です。今回の表紙は当院の目の前に広がる中央公園にて撮影しました。当日はよく晴れて、少し汗ばむ陽気でしたが若さあふれる元気いっぱいの一枚になりました。 まだまだ不慣れなこともあるとは思いますが、どうぞ温かい目で成長を見守ってください。