ロボット支援の下、従来の腹腔鏡手術以上に精密な手術が可能なダヴィンチ。今春から香川県で初めて産婦人科でも活用が始まりました。 今後の適用拡大に期待を込め、同科の医師4人が語り合います。
今は良性疾患のみに適用
悪性腫瘍への拡大も視野に
Q.当院の産婦人科の特長と、ダヴィンチに関する現状は?
後藤 当院の産婦人科は、産科、腫瘍をあつかう婦人科、生殖医療の3分野が揃っているのが特長です。2021年のデータでは、分娩741例、腹腔鏡手術139例。悪性腫瘍は卵巣がん19例、子宮頸がん9例、子宮体がん17例。不妊治療は人工授精226例、採卵が140例、胚移植137例をこなしています。
ダヴィンチの活用例は、現時点で良性の子宮全摘術10例(令和4年5月31日時点)。今まではロボット支援なしでやっていた手術を、少しずつダヴィンチにシフトしているところです。
原田 泌尿器科を中心に、骨盤臓器脱に対するダヴィンチ手術はこれまでも行っていましたが、今春から新しく適用しているのは子宮筋腫や子宮腺筋症など子宮の良性疾患です。
後藤 今のところ当院では良性疾患のみですが、全国的には子宮体がんなど悪性腫瘍の手術が増え始めています。保険適用には一定の症例数が必要で、当院がどうアプローチしていくかは今後の課題です。
櫻井 当科の特長という点では、仲の良さも挙げたいですね。何でも相談し合えて、和気あいあいとした雰囲気がいいところだと思います。
より精密な手術が可能
シミュレーターで訓練も
Q.ダヴィンチ手術のメリットは?
原田 通常の腹腔鏡以上に近接した視野でもピントがボケない高性能なカメラと、人間の手より自由に動いて手ブレが少ないロボット鉗子で、精密な手術ができる点です。細かい作業向きの手術なので、あまりにも大きい筋腫などはそもそも開腹手術になります。
門元 鉗子の動きの自由度が全然違いますね。腹腔鏡は角度が制限されますが、ダヴィンチは手の角度を自在に変えられて、狭い視野でも手術しやすいです。
櫻井 腹腔鏡手術に比べて細い血管などをより細かく見ることができますから、合併症の軽減にもつながります。
Q.高度な技術が必要ですか?
櫻井 進行した子宮頸がんに対する手術のような難しい手術は別として、通常は若い医師でも指導医と一緒に手術をすることで一定のクオリティを守れると思います。
門元 ダヴィンチはVRのようなシミュレーターでいろんな手技を練習できます。その点では腹腔鏡より習得しやすいかもしれません。
後藤 良性疾患は患者数が多いのでダヴィンチを使う機会も多く、経験値は上がっていくでしょう。一方で子宮頸がんは減少傾向にあり、それ自体はいいことですが、手術数が少ないと経験値を上げるのに時間がかかります。
櫻井 婦人科における腹腔鏡手術に関して、香川は全国的にみると後進県ですから、当院では積極的にダヴィンチ手術を進めていきたいと思っています。とはいえロボットではない通常の腹腔鏡の手技もきちんと残しておかなくてはいけませんし、バランスは大事ですね。
まずは安全第一!
着実に経験を積みたい
読者へのメッセージを。
原田 良性疾患を安全に治療することを最優先に、腹腔鏡では難しい症例もダヴィンチで対応できるよう技術を磨きたい。できるだけ患者さんの希望に沿えるよう、いい治療をしていこうと思います。
櫻井 現在、産婦人科では手術日が週2日ですが、1日1件ずつダヴィンチ手術を入れています。対応数が増えるとお待たせすることになるかもしれませんが、安全第一で、1件1件着実に経験を重ねていきます。
門元 2020年4月に赴任し、ダヴィンチ手術はまだ助手としての経験しかありませんが、同年7月中に執刀資格取得を目指しつつ、積極的にロボット手術を行っていきたいと思っています。
後藤 一番大切なのは、患者さんが安全に手術を受けて元気になること。ダヴィンチについては最新機種2台体制になり、大いに発展性があると思いますから、我々も継続的なトレーニングを心掛けます。