日本神経学会の方針に基づいて、
当院でも11月から従来の「神経内科」を「脳神経内科」の名称に変更しました。
診療内容や体制について、
治療の最前線に立つ荒木みどり部長が紹介します。
第二脳神経内科部長
荒木 みどり(あらきみどり)
日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会専門医
さまざまな楽器演奏、ポップスからクラシックまで幅広いジャンルの音楽鑑賞のほか、能や茶道、ヨガなども広くたしなむ。「院内に音楽部をつくって交流を図り、スタッフや患者さんに演奏を楽しんでもらう機会を持ちたい」という思いをずっと温めている。
Q.脳神経内科の診療内容は?
心療内科や精神科との混同を避け、脳神経内科を受診していただきたい患者さんにわかりやすくするのが改称の目的ですから、「脳・神経の疾患を内科的な専門知識・技術で診療する診療科」である点は従来と変わりません。意識障害、動けない、ふらつく、転びやすいといった患者さんの症状に基づいてさまざまな検査を行います。症状の原因となる疾患のうち、脳神経内科が扱うのはパーキンソン病、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、髄膜炎や脳炎、認知症などですが、症状に応じてあらゆる診療科の医師と連携しながら診断・治療に取り組んでいます。
昨年山本遥平医師が就任、私も今年4月から第二神経内科部長(改称後は第二脳神経内科部長)を務めています。峯秀樹第一脳神経内科部長の指導のもと、医師3人体制で診療に当たるのもこれまでと同じです。
Q.どんな患者さんが多いのでしょうか?
私自身が最近担当した入院患者さんについて振り返ってみると、一番多いのが意識障害の患者さんで、35%を占めていました。重度になると救急車で運ばれたり、集中治療室での対応が必要だったり、人工呼吸を必要とする場合もあります。私は循環器科での診療経験が長く、集中治療室での経験も多かったので、そういう患者さんに対応することが多いのかもしれません。救急部と連携し、集中治療室から一般病棟、退院までを通して担当します。
もう一つの傾向は、高齢の患者さんが多いこと。私の担当でいうと75%が65歳以上の高齢者、50%が75歳以上の後期高齢者です。
Q.これから目指したいことは?
私は常々、地域の各医療機関の連携と役割分担が地域医療の健全な維持には欠かせないと思っています。6年ほど前、体調不良がきっかけで思い切って一時的に現場を離れ、香川大学大学院地域マネジメント研究科で学んだ時期がありました。医療は重要な社会インフラである一方で、病院経営は道路や水道と異なり個々に成り立たなくてはならない難しさがあります。よりバランスのいい地域医療ネットワークを構築していくためにも、当院でできること、期待されることにきちんと対応し、患者さんの力になりたいと考えています。また、リスクマネジメントの視点を安全な医療の実践に役立てたいです。
院内で治療に当たるだけでなく、医療者の立場で院外のプロジェクトにかかわることもあります。今取り組んでいるのは、足の障害を持つ人や小さい子どもたちが、ペダル機能を使ってピアノの演奏を楽しめるようAIがサポートするアプリの開発。頭の動きでペダルを制御するシステムなので、たとえ半身不随でもペダルに足が届かなくても、自在に演奏することができるんです。私自身、ピアノをはじめいろんな楽器を楽しむ音楽愛好家なのでワクワクしていますし、医療者として医療の世界にも応用できる可能性が広がると期待もしているんです。医療の現場につながるこうした取り組みには、今後ともご縁があればかかわっていきたいですね。
高齢の患者さんが多い脳神経内科
脳神経内科は認知症やパーキンソン病をはじめ、高齢の患者さんに対応することが多い傾向にあります。高齢のパーキンソン病患者さんの場合、運動症状が強くなったり、起立性低血圧が強く表れたり、腰椎圧迫骨折が加わってより歩きづらくなってしまったりと、複数の病態が重なって見られがちです。高齢者は体温調節機能が衰えて、低体温による意識障害に陥る人も少なくありません。
医療連携で一人一人に適切な医療を
脳の疾患や認知症の精密検査には、頭部CT・頭部MRIなどの画像検査を使います。パーキンソン病やレビー小体型認知症の診断には、核医学検査も活用します。腎機能の低下がみられる人は画像検査ができない場合があるため、腎機能を確認するための血液検査も行います。
患者さんが適切な治療を受けられるよう、他の医療機関やかかりつけ医などと連携することもあります。複数の病気を抱えていたり、薬をたくさん服用している場合は、他診療科の治療や薬との相互作用に気をつけつつ、さまざまな制約の中で検査や治療を進めていく必要がありますから、受診の際はおくすり手帳をぜひご持参ください。ペースメーカーをつけている人は、MRIを撮る際に手帳の確認もお願いしています。
意識障害の症状はさまざま
まったく反応がない昏睡状態だけでなく、強く呼びかけたり肩を揺すると目覚める、反応が鈍い、目覚めているのに返事をしない、言われたことを正確にできない、なども意識障害に含まれます。急に状態が悪くなるケースから、数日かけて徐々に変化するケース、よくなったり悪くなったり変動するケースまで、患者さんによってさまざまです。
異常に気づいたら早めに受診しよう
意識障害の診断には、脳波検査を使います。どのくらい目が覚めているか、どのくらい周囲の状況を認識できるか、喋ったり手足を動かしたりできるか、といった観点で意識の状態を評価します。原因となる疾患に基づいて各診療科の専門医が治療に当たります。内科的な原因としては、脳炎、髄膜脳炎、非けいれん性てんかん、電解質異常や低血糖、ビタミンB1不足、体温異常などが挙げられます。
意識障害に特別な予防法があるわけではなく、早期診断・早期治療が重要です。自分で「ちょっと変だな」と感じた時はもちろんですが、意識状態の変化に自分では気づきにくいため、家庭や職場などで意識状態に異常がある人を見かけた時も、早めに医療機関を受診するよう声をかけましょう。また、寒さが厳しい冬季は特に低体温による意識障害に注意が必要です。