今年9月に新しく導入した3Dマンモグラフィ装置は、これまで発見しづらかった病変を判別しやすくなるだけでなく、痛みや圧迫感など検診時のストレスを軽減する機能も搭載しています。乳がんは比較的若い世代も発症リスクの高いがん。より気軽に受けられるようになった乳がん検診で、早期発見・適切な治療を目指しましょう。
初期は自覚症状がなくセルフチェックでは不十分
乳がんの罹患率は40代後半~50代前半が高いのが特徴で、働き盛りの女性を襲う病です。一方、高齢者や男性もリスクがゼロではなく、「女性だけの病気」「歳をとっているから大丈夫」といった思い込みは禁物。初期はほとんど自覚症状がなく、症状が出た時にはかなり進行している場合が多くみられます。統計によれば、発見が早いほど高い生存率につながることもわかっています。
肥満や喫煙、飲酒などでリスクが上がる可能性が指摘されており、まずは適切な運動とバランスのとれた食事で健康的な生活を送る心掛けが大切です。しかし、それも確実な予防法ではありません。自分でできることの一つに月に1回程度のセルフチェックが挙げられますが、自分で触ってわかるほどの大きさになるとかなり進行しているケースが多く、早期発見で根治を目指すには定期的に検診を受けるのが最も重要と言えます。
要精密検査でも不安になりすぎないで
乳がん検診は、職場や行政の検診のほか、医療機関で希望すれば自費でも受けられます。特に40歳以上の女性は検診を推奨されており、市町から2年に1度クーポンも配布されています。全国の乳がん検診受診率は47.4%(2019年現在・国民生活基礎調査)、香川県は51.2%で全国11位となっていますが、まだ十分とは言えません。
検診にはマンモグラフィ検査と乳腺エコー検査があります。どちらか一方のみを行う場合もありますが、片方だけでは見つけにくい症例もあるため、両方受けるのが理想的です。乳がんが疑われる結果が出た場合は「要精密検査」となり、ふたたびマンモグラフィ・エコー検査を行うほか、細胞を採取して顕微鏡で確認する「エコー下吸引細胞診」や「組織診」、「マンモグラフィガイド下マンモトーム生検」などを行う場合もあります。
検診を受けて精密検査が必要と通知される人は、全体の1割程度(香川県は5~7%)。実際に乳がんと診断される人はその5~10%にとどまり、精密検査対象者のほとんどは「良性」「問題なし」とされ、要精密検査と通知されただけで過剰に不安になる必要はありません。しかし、乳がんのリスクがあることは自覚し、より正確な診断のために、きちんと精密検査を受けましょう。
乳がんの治療は基本的に「手術」
検査の結果、乳がんと診断された場合は、必要に応じてさらに詳しく乳がんの状態や転移の状態を調べるCT検査、乳房内の進行を調べるMRI検査、骨への転移を調べる骨シンチグラフィ検査、PET検査や血液検査などを行った上で、患者さんの年齢、全身の状態、希望などを踏まえて治療方法を検討します。
薬物や放射線だけで乳がんを治療する方法はまだ確立されておらず、現状は手術が一番効果的な治療とされます。乳房を温存する「乳房部分切除術」と全摘出する「乳房切除術」があり、希望すれば全摘出後に乳房を再建する手術を行うことも可能です。がんが大きい場合や進行している場合は、まず抗がん剤を使う「術前化学療法」でがんを小さくしてから手術を行うケースもあります。
手術後は、摘出したがん組織の病理検査を行い、乳がんのタイプや悪性度、進行度を詳しく調べて、再発防止のためのホルモン治療、化学治療、分子標的治療などの「術後補助療法」を検討します。
第二胸部・乳腺外科副部長
法村 尚子(のりむらしょうこ)
日本乳癌学会乳腺指導医・専門医
患者さん一人一人の状況や希望に合わせた治療はもちろん、がんを告知された患者さんのショックを少しでも和らげ、積極的に治療を進めていける心のサポートも重視。休日は3歳の娘と家族で遊んで過ごす。