さぬきの健康と元気をサポートする高松日赤だより

なんがでっきょんな

病院のこと

特集 これからの周産期医療

赤ちゃんも、女性も。
守るべき命のために、
病棟がうまれかわります。


2020年4月にオープンする「本館北タワー」。その新しいフロアに移転する病棟のひとつが産婦人科です。
近年では晩婚化も進み、高齢出産も当たり前になっている時代に、高松赤十字病院では今の時代に求められる、新たな周産期医療の環境づくりに取り組んでいます。

新病棟になって変わること

産婦人科病棟が本館北タワーに移転することによって、これまで同じフロアで対応していた産科と婦人科のフロアが分かれ、より患者さんのプライバシーに配慮した診療が可能になりました。
5Fに分娩、切迫早産、産後管理などを行う産科病棟、6FにNICUを備えた小児科病棟、7Fには子宮筋腫や卵巣のう腫などの婦人科疾患や乳腺疾患などに対応する女性病棟が移転します。
女性病棟と同じ7Fには体外受精などの不妊治療を行う「高度生殖医療センター」が設置され、不妊に悩むカップルにも対応します。


迅速なケアができる設計と
開放感のあるキレイな空間

本館北タワーは、産科病棟(5F)の階上(6F)にNICU、階下(4F)に手術室があり、分娩にまつわる緊急事態でも、迅速に対応できるよう設計されています。
さらに、病室もこれまでは個室以外の部屋は4〜6ベッドでしたが、新病棟では3ベッドと、ゆったりと過ごせる空間になっています。

出産後からすぐに始まる
赤ちゃんとの時間もサポート

これまでは希望される方を対象に、母子同室が出産の3日後から可能でしたが、新病棟になり設備も充実したことで、元気な子であれば出産のその日から同室で過ごすことができるようになりました。赤ちゃんと24時間一緒に過ごすことで、授乳以外の時間の赤ちゃんの様子も間近で知ることができます。
他にも、新生児預かり室や授乳サロン、保健指導室、デイルームなども備え、「泣いたときにどうする?」「お乳を飲んでも眠らない」などの疑問や心配ごとを当院にいる間に少しでもなくし、ご自宅に帰ってからの育児への自信につながるようサポートし、総合的に赤ちゃんとお母さんのケアができる環境づくりをしています。

家に近い環境の個室「LDR」


新病棟ではさらに、「LDR」という新たな設備が加わりました。LDRとは、陣痛(Labor)・分娩(Delivery)・回復(Recovery)の頭文字の略で、陣痛開始から分娩、産後の回復までをひとつの部屋で過ごすプライベートルームです。
安全性・快適性・充足性をすべて満たす発想で作られていて、病院内にいながら家庭にいるのと同じ環境で、出産やその後の回復期を迎えることができます。
通常の陣痛室や分娩室と同じように医療機器類はありますが、室内は可能な限り家庭の雰囲気に近づけ、ベッドは分娩時になると産婦さんが寝たままでも分娩台として用いることができる仕様になっています。


不妊治療もレベルアップ


7Fの「高度生殖医療センター」では、できるだけ自然妊娠をしてもらうことを期待して、まずは排卵誘発や人工授精といった一般的な不妊治療を行い、妊娠に至らない場合は腹腔鏡手術や体外受精といった高度生殖医療を提供します。
近年は、めざましい女性の社会進出により晩婚化が進んでいますが、そこで社会問題となっているのが卵子の老化。不妊治療の成功率は女性の年齢に大きく左右され、卵子の老化によって35歳を過ぎると妊娠率も低くなるため、早めに治療をスタートすることが大切です。
一方で、不妊治療は女性のイメージがあるかもしれませんが、男性側に不妊原因があるケースも多く、その割合は不妊カップル全体の約半数。高松赤十字病院の泌尿器科では男性不妊症の専門医も揃っているため、女性側のみならず、男性側の治療も積極的に行っているのが大きな特徴のひとつです。

妊娠する力を温存するために


高度生殖医療センター」では、生殖機能を温存するいわゆる「妊よう性温存治療」も行っています。若いがん患者さんではその治療内容によっては、卵巣・精巣など生殖臓器の喪失や機能不全が起こり、将来子どもを持つことができなくなる可能性があります。
そのため近年は、一定の制限内ではありますが、がん治療後の妊よう性(妊娠するための力)の温存を目的とした医療が試みられるようになっています。
具体的には、受精卵の凍結(パートナーのいる女性が対象)、卵子の凍結(パートナーのいない女性でも可能)、卵巣組織の凍結(思春期前の女児でも可能)などが挙げられます。

地域から信頼される周産期医療


患者さんの笑顔のために、チームで力をあわせています。

患者さんの笑顔のために、チームで力をあわせています。

当院の2018年の総分娩数は676例。他の医療機関からの妊婦さんの紹介率は、2017年の81.3%から2018年は85.5%と上向きに伸びており、周辺地域からの信頼や期待も感じています。
早産、妊娠高血圧症候群、子宮内胎児発育不全などの産科的異常や、さまざまな病気の合併症を持つ妊婦さんも多く集まっており、他診療科との連携という総合病院ならではのメリットを活かして、高度な周産期管理を行っています。
たとえば、小児科との連携による2500g以下の低出生体重児をはじめとした手厚い新生児管理や、麻酔科との連携による迅速な帝王切開術、内科との連携による妊娠糖尿病や甲状腺疾患合併妊婦の管理など、共同チームにより総合的な周産期管理が可能になっています。
さらに、周辺の病院から母体搬送、新生児搬送されることも多く、24時間いつでも産科、小児科のスタッフがすぐに集まれるような体制がとられています。

助産師さんの人数はトップクラス


当院の産婦人科は現在、常勤の医師8名、助産師26名という充実した人員が整っているのも特徴のひとつです。
診療以外にも、助産師を中心とする3回にわたる母親学級を、産科、小児科医師、栄養士も参加して開催しています。実際に楽しく体験しながら妊娠・分娩について学習・理解を深められ、わからないことについてはその場で気軽に質問することができます。
患者さんにとって、小さなことでも不安・心配を解消し、お母さんになる準備として、生まれてくる赤ちゃんに対して母性の意識を高めることが何よりも大切です。
最近は特に3回目の両親学級には多数のお父さんになる男性にも参加していただいており、夫婦で分娩・育児する点はすばらしいことだと感じています。

112年の歴史ある産婦人科として

高松日赤の産婦人科は、明治40年の日本赤十字社・香川支部病院の開設以来、112年に渡って地域の周産期医療を担っています。その長い歴史に裏づけされた高い医療レベルを、これからも安心・安全なお産に役立てていきたいと考えています。
また、当院は周産期の高度な医療を提供する施設として「地域周産期母子医療センター」の認定も受けており、地域の皆さんからは「高松日赤に行けば安心」と期待されうる場所だと考えています。
安心してお産にのぞめる場所であること。安全に配慮した環境であること。そしてこれからは本館北タワーに移転することで、より「居心地のいい場所」として生まれ変わっていきます。
高松市のなかでも街の中心部にある「地域周産期母子医療センター」として、その機能を十分に果たしていくつもりです。

女性の一生に寄りそう診療科

私は長らく産婦人科の医師として従事してきましたが、やはり時代の流れと共に、晩婚化が進んでいることをダイレクトに実感しています。その影響によって、高年初産婦(初めてのお産が35歳以上の方)や不妊患者さんが間違いなく増加しています。
産婦人科というのは、お産とその前後に関する「周産期領域」だけでなく、子宮筋腫や卵巣がんなどの「腫瘍領域」、不妊症などに関する「生殖・内分泌領域」など、いわば女性の一生にまたがる診療科です。
ときにはお産をサポートし、お母さんの生活の不安を解消し、ときには病気を治し、お子さんに恵まれるよう努力するのが、私たちの役割です。
産婦人科医として、これからも時代にあったケアで、患者さんが「幸せ」を感じられるように努力していきたいと思っています。

赤ちゃんに優しい病院を目指す

本館北タワーのNICUでは、早産児などの成長を促すケア(ディベロップメンタルケア)に配慮して、音や光の刺激を緩和し、胎内に近い環境づくりをしています。
パーテーションによる面会時のプライバシーにも配慮し、重篤な予後予見の新生児が家族と共に過ごせる部屋として、ファミリールームを新たに設置しました。その部屋は、退院前の準備として、医療者が近くにいる状況で、赤ちゃんとの家庭生活をシミュレーションする場としても利用できます。
さらにSCU(スペシャルケアユニット)では、NICUを出た後の赤ちゃんのケアを行います。酸素投与などの医療的ケアが必要なケースだけでなく、退院に向けた育児指導や、障がいのある赤ちゃんのケアの指導や福祉との連携をはじめ、試験外泊や担当ナースが自宅訪問し、退院後のサポートに役立てるなど、赤ちゃんと家族が安心して暮らせるためのフォローをしています。また、黄疸や低血糖など病気になった新生児のケアも行います。
私たちは、新生児から乳児、小児、学童、青年期に至るまでの切れ目のない小児医療の出発点を担っています。その大事なスタートラインが子どもと親にとって、より良いものになるために。新たな治療や先端知識を前向きに取り入れ、これまで同様に、産婦人科、心理士、医療ソーシャルワーカー、臨床工学技士、理学療法士との連携をより充実させ、チームワーク医療を提供していきたいと考えています。


第一小児科部長
幸山 洋子(こうざん ひろこ)


自身のモットーは、「すべての大人は皆、昔は子どもだったこと」を忘れないこと。小児科医として、子どもの立場に立って考えるために、かつて子どもであった自分を忘れないように心がけている。


表紙

なんがでっきょんな

vol.70

最新号

「高松日赤だより なんがでっきょんな」は、患者の皆さんに高松赤十字病院のことを知っていただくために、季刊発行する広報誌です。季節に合わせた特集や役立つ情報を掲載いたします。冊子版は、高松赤十字病院の本館1階の③番窓口前に設置していますので、ご自由にお持ち帰りください。左記画像をクリックすると、PDFでご覧になることもできます。

Take Free!

Columnvol.70の表紙のひと

1年目初期研修医

4月より新しく加わった10人の研修医です。今回の表紙は当院の目の前に広がる中央公園にて撮影しました。当日はよく晴れて、少し汗ばむ陽気でしたが若さあふれる元気いっぱいの一枚になりました。 まだまだ不慣れなこともあるとは思いますが、どうぞ温かい目で成長を見守ってください。