診療の最前線

消化器外科

腹腔鏡手術がもたらした外科手術の変化

腹部外科領域では近年鏡視下手術の普及がめざましくすすんでいます。腹腔鏡下手術症例は最近10年間で3倍程度に増加しており。特に消化器外科領域での主要病変である胃がん、大腸がんでは腹腔鏡下手術がどんどん取り入れられています。(図1)
当院でも鏡視下手術の占める割合は年々増加しています。(図2)




鏡視下手術の普及は単に開腹手術の減少をもたらすだけでなく、開腹手術の手技や考え方にも影響を及ぼしています。

鏡視下手術のメリットとして当初は低侵襲性が主なものと考えられていましたが、現在ではそのほかにも拡大視効果により精緻な手術が可能となることや、開腹手術とは異なった視野で手術することによってむしろ開腹術よりもやりやすい場合があることもメリットと考えられています。


鏡視下手術の拡大視効果のもとで開腹術と異なった視野から術野を観察するようになり、開腹術ではわからなかった新しい外科局所解剖の理解が進むようになりました。鏡視下手術によって得られたこれらの知識は開腹手術でも応用されるようになっています。当科では開腹術でも鏡視下手術と同じように拡大視するためルーペを頻回に使用するようになってきています。


単孔式腹腔鏡下虫垂切除術

単孔式腹腔鏡下虫垂切除術


ルーペを使用した手術

ルーペを使用した手術


また、鏡視下手術の普及は様々なデバイスの発達ももたらしました。超音波凝固切開装置やシーリングデバイス、自動吻合機、バイポーラなど鏡視下手術から生じるニーズによって発達したデバイスは開腹手術でも使用され、結紮縫合や腸管の手縫い吻合を行う機会がどんどん減少しています。

手術手技を動画として常に記録する鏡視下手術の普及は外科医が手術手技を習得するうえで大きなメリットをもたらしました。術者と全く同じ視野で手術を繰り返し見ることが可能となり、さらにいろいろな施設の手術も見ることができるようになり、手術技術の標準化を進めやすくなっています。

近年みられる術前の画像診断技術の進歩にも鏡視下手術の普及が大きな影響を与えています。触覚を充分に駆使できない鏡視下手術では触覚に頼って組織を認識することができないため、術前の画像診断で血管や腫瘍などの重要な組織の位置関係の把握を行うことが必要となります。そのため3DCTや術前シュミレーション画像などの技術が発達し、これは開腹術でも応用されています。(図3・図4)




鏡視下手術の普及はさまざまな変化を外科手術にもたらしています。今後も単項式手術やロボット手術などの普及に伴い様々な変化がおこってくるでしょう。

消化器外科では、古いことにとらわれることなく、新しいことにすぐに飛びつくのではなく、見極める目が必要とされます。患者さんにとって一番よい医療をできるように心がける基本的な姿勢はかわることなく、慎重に、しかし積極的に最新の医療を取り入れていきたいと考えています。