診療の最前線

胸部・乳腺外科

「胸腔鏡」の現状

胸腔鏡手術全般をVATS(video assisted thoracic surgery)と呼びます。現在、「肺がん」はもちろんのこと「転移性肺腫瘍」「肺良性腫瘍」「気胸」「膿胸」「胸腺腫」「縦隔・胸壁腫瘍」「多汗症」「漏斗胸」「生検」「心膜切開」など様々な呼吸器外科領域の疾患に対し、使用しています。完全鏡視下手術のほかにも小開胸手術・大開胸手術にも併用して使用しており、適応率はほぼ100%です。


「胸腔鏡手術」のメリット


術者のみが視野を独占する従来の手術とは違い、高画質モニターで複数の目で手術を進行できる事です。拡大視効果で肉眼では見えなかった細かい神経や血管を確認できるようになりました。また、麻酔科医・手術室看護師含め全員が同一視野を共有し、より安全性が高まったと考えています。大開胸手術においても、直視では死角が存在します。これを補うことにも非常に有効です。
「胸腔鏡」は既に20年以上の歴史があり、機械の進歩とともに我々も成長しております。記録という面も重要で、手術は全て高画質映像で保存されています。術後会議や手術記事に使用したり、やむなく術中出血が起こった場合などは即座に巻き戻し再生し、出血点を確認したりできます。また、ご希望があれば、キー画像を患者さんにお渡ししています。


我々の「肺がん完全鏡視下手術」


平成23年頃より「肺がん」に対して、完全鏡視下手術を導入しました。肺がん完全鏡視下手術の特徴は、これまでの手術と異なり、全て高画質モニターのみで手術を完遂する術式です。脇腹に数センチの穴を3カ所開くだけで済みます。手術侵襲が低く、早期退院が可能となりました。筋肉の損傷が少ないため、術後の患側上肢の運動機能も術前と変化なく良好です。3つの穴に医師3人がつき、それぞれが術者・助手・カメラの役割を担当します。
当院では、手術ごとに術者・助手・カメラ担当をローテーションするため、技術レベルが安定しています。若手医師が入っても、他2人の医師でカバーできるので、後進の教育という面でも優れています。
VATSにつきまとう課題は、肺動脈などのもろい血管を傷つけることによる大出血ですが、そのリスクも器具の進歩によって軽減されました。以前は大出血を起こした際には、開胸手術に切り替えて処置をしなければいけませんでしたが、最近では人工糊やシートである程度の出血なら止血可能です。更に、当院では事前にCTを撮影し、3D構築の上、重要な血管を確認してから手術に臨んでいます。


「肺がん」に対して完全鏡視下手術


術野映像確認


「肺がん完全鏡視下手術」の実績


肺がんの標準術式である肺葉切除であれば、手術は約2時間30分程度であり、術後約1週間で退院可能です。平成24年1月から平成27年12月までに245名(259症例)の方が肺がんVATS手術(うち90%以上が完全鏡視下手術)を受けられています。当院では近年、「肺がん」に関して術死の経験は幸いなく、完全鏡視下手術を円滑に完遂できています。詳細は、当院ホームページ「胸部・乳腺外科」でもご確認ください。

肺がん手術は年々増加傾向であり、胸部・乳腺外科/呼吸器内科/放射線科などチーム一丸となって治療を行っていますのでご安心ください。


合同カンファレンス


「拡大手術」への適応


進行肺がんで胸壁(肋骨)を切除せざるを得ない場合や気管支を縫合する手術も、胸腔鏡を併用することで最小限の創にできます。更に抗がん剤や放射線治療を行った肺がんにも適応しています。また、悪性胸膜中皮腫に対する胸膜肺全摘術(呼吸器外科領域で最も高侵襲)にも使用し、死角のない安全な手術を心掛けています。複数の目で術野を確認することは、術者のストレスも減らすことになります。
これほど胸腔鏡が発展した理由はまさにそこで、「患者さんにも我々にも低侵襲」だからです。


「肺がんと喫煙」


肺がんは、日本のがん死亡第1位であり、年間約7万人が治療の遅れなどにより大切な命を落としています。予防としてタバコを吸わない事とやめる事に効果があることが証明されています。また、禁煙に成功してもリスクが非喫煙者と同じになるのに約10年かかるといわれており、一旦壊れた肺組織は元に戻りません。喫煙は、他のがんの原因だけでなく、様々な成人病を引き起します。
40歳以上の喫煙者は、禁煙はもちろんのこと検診での胸部写真や喀痰細胞診をお勧めします。平成18年から当院を含めた認可医療機関で禁煙治療の保険診療が可能です(当院では毎週木曜日実施)。タバコは今後値上がりする一方です。これをきっかけに、喫煙されている方は、タバコのリスクを十分ご検討ください。


「肺がん完全鏡視下手術」のお問い合わせ


開胸手術に比べ、胸腔鏡手術が低侵襲なことは議論の余地はもはやありません。しかし、あくまで手術は、がん治療(根治)を安全に行うことが目的であり、患者さんは手術法をよく理解したうえで、望むべきと考えます。肺がん完全鏡視下手術や胸腔鏡手術に関するお問い合わせは、胸部・乳腺外科外来までご連絡ください。

 高松赤十字病院 胸部・乳腺外科外来
 TEL:087-831-7101(代)

受付時間:平日の午後3時~4時30分までにお電話ください(通常業務も行っておりますが、可能な限り対応させていただきます)。