診療の最前線

皮膚科

あなたのホクロ大丈夫ですか?

はじめに

悪性黒色腫はメラニン色素を産生するメラノサイト由来の悪性腫瘍(図1)で、いわゆるホクロの癌とも言われています。年間10万人に1~2人の発症頻度の稀な悪性度の非常に高いがんで、日本人では手足に好発します。以前は進行すると治療は限られていましたが、2014年に免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬といった新たな治療薬が登場し、大きく変化しました。


図1


悪性黒色腫の診断

多くの場合は視診で診断可能です。まず良性か悪性かを見極める代表的な診断基準としてABCDルールがあります(表1)。表1のような特徴がみられる場合には悪性の可能性があります(図2)。しかし初期の悪性黒色腫などは、視診だけで判断できない場合があり、そのためにダーモスコープを用いた診断を行います。ダーモスコープは光源のついた約10倍程度の拡大鏡であり、皮内の色素沈着の状態などを観察することができます(図3)。良性の場合は皮溝優位の色素沈着を認めるのに対して、悪性の場合は皮丘優位の色素沈着を認める場合が多いです。それでも診断がつかない場合は、皮膚生検を行い、診断を確定します。


図2

表1

図3


センチネルリンパ節生検

悪性黒色腫はリンパ節転移が生命予後に大きく関与することがわかっています。比較的早期でもリンパ節への転移が見られることがあるため、リンパ節への転移の有無を調べる方法として『センチネルリンパ節生検』が行われます。センチネルリンパ節とは、腫瘍からのリンパ流を最初に受けるリンパ節で、最初にがん細胞が転移するリンパ節のことです。これを切除してリンパ節転移の有無を判断します。センチネルリンパ節生検の方法としてはラジオアイソトープ(RI)法と色素法が用いられます。RI法は、手術前日に放射性同位元素を病変周囲に注射します。放射性同位元素はセンチネルリンパ節に流れ着くことから、これをリンパシンチグラフィーという機械を使って撮影し、センチネルリンパ節の位置を同定します。また手術当日に、インドシアニングリーンまたはパテントブルーといった色素を病変周囲に注射することによって、センチネルリンパ節を染めることができ、この方法を併用することで、より正確にセンチネルリンパ節を切除することができるようになります。

悪性黒色腫の治療

早期病変であれば外科的切除が有用です。しかし、抗がん剤(ダカルバジンなど)にあまり効果がみられないのが悪性黒色腫の特徴であり、進行すると治療法が限られ太刀打ちできなかったのが現状でした。しかし、2014年に免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるオプジーボ(ニボルマブ)の登場を皮切りに悪性黒色腫の治療法は激変しました。従来の抗がん剤(ダカルバジン)とオプジーボの効果を比較した報告では、オプジーボの方が有意に全生存期間を延長させました(図4)。


図4

免疫チェックポイント阻害薬

悪性黒色腫に対して、免疫チェックポイント阻害薬として現在はオプジーボ、キイトルーダ、ヤーボイといった薬剤が用いられています。免疫チェックポイント治療とは、体内の免疫の活性化を持続する方法です。がん細胞が体内の免疫から逃れようと免疫細胞にブレーキをかけることが解明されており、オプジーボなどはそのブレーキがかかるのを防ぐ役割を持っています(図5)。これらの新たな治療法の出現により、これまで治療法が限られ太刀打ちができなかった患者さんにも効果が期待できるようになりました。効果はおよそ10〜40%に認められ、一度効果が出ると長続きすることもあります(図6)。しかし、免疫細胞のブレーキを外すことで自己免疫反応による副作用が出ることがあります。糖尿病、大腸炎、皮膚障害、肺障害、肝障害などがそれにあたり、時に命に関わることもあるため注意が必要です。


図5

図6


分子標的薬


分子標的薬とは、正常細胞を傷つけないように、がん細胞で特異的に変異がみられる遺伝子のみを阻害する薬剤です。悪性黒色腫ではBRAF遺伝子変異が癌の進行に関わっていることがわかっており、BRAF遺伝子変異を認めた場合は分子標的薬を使用することができます。分子標的薬は即効性があり、内服開始数日で効果が出現する場合もあります。しかし、薬剤耐性が出現するため長期的な効果は期待しにくいという欠点もあります。また日本人においてBRAF変異を有する割合は30%弱、日本人に多い手足の悪性黒色腫においては10%程度と報告されており、全ての人に使用できるわけではありません。

当科における悪性黒色腫の診療体制

悪性黒色腫は、これまでは進行すれば有効な治療法のない癌でしたが、新しい治療薬の登場により治療法が大きく変化し、これまで治療法のなかった方にも福音です。当科において免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の治療も積極的に行っております。また、現在センチネルリンパ節生検を施行できる体制を整えております。それにより各種検査から診断、治療まで全て当科で可能となるため、患者のみなさまの負担軽減や最適でスムーズな医療を提供できるようになります。